006:別れ
「ねえ、月が見たいわ。連れて行って。」

「あぁ…」

「どうしたの?まだ大丈夫よ。」

其の言葉に硬い表情のまま夫は妻を抱きかかえて夜空へ飛び出す。

「寒くないか?」

「ふふ。珍しいわね。そんな事聞くなんて。大丈夫よ。それより見て…」

妻が夜空を指差す。

「凄いわね…こんな満月、見たことないわ。」

あなたに尻尾がなくて良かったわ、と呟く。夫はピクリ、と方眉を上げたが。

「そろそろ戻るぞ…」

「ねぇ、まって。もう少しこのまま。聞いて欲しいことがあるのよ。」

 

「私ね、あなたと居られてとても幸せよ。」

「そうか。」

「満点、って訳じゃなかったけど、夫として父親としてよくやってくれたわ。」

「…そうか。」

「ブラが生まれてからは特にね…」

「ば、バカを言うな。」

「うふ。真っ赤になっちゃって…
こんなに幸せなのもあなたが生きていたから。
あなたが死んでしまったときどれだけ私が絶望したか。
生き返ってくれたときどれほど嬉しかったか…」

「……。」

「ね、キス、して?」

「ここでか?!げ、下品な…」

「いいじゃない。ね、キス、して?」

「…。」

そっと唇を重ねる。

「ふふっ。ありがとう…私って幸せ者だわ。
あなたと一緒に居られて幸せだったわ…まってる…から…。」

其の言葉を最後に今まで首に回されていた腕が解けだらりとぶら下がる。

「ブ、ブルマ…?!」

慌てて身体をゆするが反応は、ない。

ベジータは地上に降りてブルマを地面に横たえる。

「ブルマ…」

少しずつぬくもりが消えてゆくブルマの髪を梳きながら
ベジータはぐっと歯を食いしばり何かを耐えているようだった。
しかし、ベジータの目に透明な液体が湧き
そのほほをぬらしながらブルマの顔にハラハラと舞い落ちた。

いつまでも、

いつまでも。

 

 

 

 

 

 

ねぇ、ベジータ。

アタシ幸せよ。

アンタを愛して愛されて。

 

愛してるわ。

 

ずっと、アイシテル。



040322
ベジブルですね。ブルマが先に逝ってしまう話。
ぽっかり空いてしまったであろう心の隙間、ベジはどうやって埋めたんだろう?


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