025: 一人の夜
いつの頃からか。二人で居ることが当たり前で、たった一晩とは言え、こうして離れて過ごす夜が来るとは思わなかった。

理由は些細なことで。

お坊ちゃまがどうしてもナルミと二人きりで話がしたい、とナルミをつれて出かけてしまったから。お坊ちゃまも今では少年から青年へと成長して私の守りも必要なくなり。

”男同士で話したい”という理由でナルミを連れ出してしまった。

ナルミと二人で居るとき、このナルミの家もいささか手狭に感じるのに、一人だとどうしてこんなに広く感じるのだろう。

お坊ちゃまと出かける前にナルミが用意していた食事も一人だとまるで砂を食べているようでこんなにも味気ないものだなんて。

一人で過ごすことが当たり前だったあの頃は。

一人での食事も、眠ることも寂しいとは感じなくて。

それが今は。

帰って来ると解っているのに、こんなにも寂しいと思ってしまう。

一人ぽっちの食事を済ませ、さっさとベットに潜り込む。

ベットに潜り込んでもいつものぬくもりは当然なくて。一緒にいる事がこんなにも当たり前になっていたなんて。

「寒いな…」

フカフカのベッドなのに肌寒く感じる。自分の肩を自分で抱きしめるように、体をギュッ、と丸めて眠りについた。










「…ただいま、しろがね?」

家に戻ると既に照明が落とされていて、居間にしろがねの姿は無い。出かける前に自分が用意していた食事を取った跡はあって。寝室を覗いてみると、しろがねは小さな子供のように体を丸めて眠っていた。

起さないようにそっとベットに滑り込む。

「ん…ナ、ルミ?」

一瞬目を開け、こちらを見ると寂しかった、と呟くと擦り寄ってきて抱きつき、そのままスゥスゥ寝息を立て始めた。

「ごめんなー…次はもう少し早めに切り上げて戻ってくるから…」

眠っているしろがねにそう呟いて銀の髪に口付け、その細い体をしっかり抱きしめ眠りについた。



110923

しろがね一人でお留守番。二人でいる事があまりにも当たり前すぎて、いざ一人になると思った以上に寂しくなっちゃったしろがねさん。
そんな頼りなげな姿をみて、やっぱりしろがねが起きているというか、待っていてくれる時間帯に帰ることを密かに誓う鳴海さんでした。

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