037:気まぐれ |
きっかけはホンノ些細なこと。 あいつがいつもの様に男と喧嘩をして。 いつもの様に酒を片手にオレの所で愚痴を言う。 ま、オレは聞き流すだけだが。それは日常のことだった。 でも今日は少し違う気がした。 「ね、今晩も少し付き合って。」 そう言ってオレの部屋に入ってきた女はいつもと同じく椅子を引き寄せ座り込む。 テーブルにグラスを2つ置いて流線型のボトルから透明な液体を注ぎ込む。 トクトク、と音を立てグラスが満たされてゆく。 そうして注ぎ終わった片方のグラスをオレによこした。 「今晩は一緒に飲んで?アルコール、飲めるでしょ?」 こんなことは初めてだった。 しょっちゅう愚痴を聞かされてはいたが酒を勧めることは無かった。 と言っても初めに酒を勧めるならさっさと出て行け、と怒鳴ったせいでもあるが。 普段は一人で酒を飲みつつ愚痴をオレに聞かせているような、ないような。 気が済むまで愚痴り出て行くのだ。 オレは愚痴ることができる空間を提供しているだけなのだ。 一度なぜオレの部屋に来て愚痴るのか聞いたことがあった。 答えは単純明快、 「アンタ、口堅そうだし、言いふらす相手、いないでしょ?」 といってコロコロと笑っていた。 そんなあいつが。 「今日だけでいいの。一緒に飲んで…」 そう言った女、ブルマにはいつもの「覇気」はなくあまりにも弱弱しく感じた。 オレはグラスをとり、 「今晩だけだ。」 そう言ってどっかりとテーブルに付く。 「ありがとう…ベジータ…。」 ブルマはグラス片手に「乾杯…」とカチン、とグラスをあわせクイッ、と中身をあけた。 オレもとりあえず口をつける。 …口当たりがいい。多分いい酒なんだろう。 「どう?ベジータ。」 「何がだ?」 「お酒よ。これ結構いいワインなのよ。高かったんだけどね…。 折角用意しても一人ではね。オードブルもあるのよ。」 ふふっ、と自嘲気味に笑いカプセルを開ける。 次々にテーブルに乗せられる料理。どう見ても女一人の量ではない。 まぁオレ様には足りないくらいだが。 「びっくりした?ベジータなら全部食べても足りないくらいでしょ? 残してももったいないから食べちゃって?」 酒のつまみとしては豪勢だ。 きっとヤムチャの奴と食べる予定だったのだろう。あの男が好きそうな物が多かった。 「何かあったのか?」 その言葉にびくっ、とブルマは身体を振るわせた。 「何か、って別に…」 そう言ってグラスを空ける。 「アイツと何かあったのか?」 ブルマは目を見開いてオレを見つめている。 「ヤムチャと何かあったんだろう?」 もう一度ブルマに言葉を投げかける。 目玉が落ちそうなくらい見開かれた目に見る間に透明な液体がたまって零れ落ちる。 思わぬ反応に思わず。 「お、おいそれを止めやがれ!!」 「なによ!アンタが悪いのよ!折角我慢していたのに『ヤムチャ』なんて言うから…!」 と言ったかと思うとぽろぽろと涙をこぼしわんわん泣き出してしまった。 まるで幼子のように泣きじゃくるブルマ。涙で化粧が崩れても声を上げてないている。 …くそっ。まるでガキじゃねえか。 泣いているガキを黙らすには。 「黙りやがれ。」 一瞬驚いてブルマが顔を上げた瞬間、オレはブルマを抱きしめた。 優しく髪を梳いてやる。オレ様だってこれくらいの事はできる。 「ベ、ベジータ…?!」 目を白黒させながらブルマがオレの腕の中で顔をあげる。 「…お前の化粧の崩れた顔なんぞ見たくないからな。」 皮肉を言ってやったがブルマはおとなしくオレの腕に収まったままポツリポツリ話始めた。 あのねぇ、アイツってばまた浮気してたのよね。 最後には私のところに戻ってくるのは解っていたんだけどさ。 もう、疲れちゃった… 堂々と浮気されるのもイヤだけどね、こそこそされるのもイヤ。 どうせならこのブルマさんが気が付かないくらいだったら… 良かったかもね。 だから。 さよならしたの。 話し終えると軽くため息をついた。 「話したらなんかすっきりしたわ。もう少しだけ、このまま…」 オレの胸に顔を寄せ声を殺してブルマは泣いていた。 どのくらいそうしていたのか。 「おい、いいかげんどきやがれ…。」 そう言ってブルマを引き剥がすと既に泣きつかれて眠っていた。 こうしておとなしくしていればそれなりなんだがな。 このまま床に転がしておいてもいいが後が煩いからな。 とりあえず自分のベットを明け渡してソファで休むことにする。 次はアイツの部屋で飲ませよう。オレの部屋は断固死守するぞ。 気まぐれでの行為とはいえ不思議な満足感に満たされながらオレは眠りについた… 040313 ベジブル。なれ初め前のきっかけ、って言った感じ。 お題はなかなか良いかも。 戻る |