053: アイタイ。

ヴィルマに指摘されたコト。

私はあの人のコトを。

本当は?



「ふーん、しろがね、アンタ相当、そいつにいかれてたねえ…」

「いかれて…?」

「愛してたってコトさ。」

「え…」



愛していた?

人形の私が誰かを愛する?



でも。



才賀の屋敷でエレベーターに閉じ込められたとき。

あの人の笑顔は。

肩にまわされた腕はとてもあたたかかった。

私の悪夢を追いやってくれた。


いつからだろう。


人のために怒り、笑い、泣く。

自分の命が大切だからこそ弱い者の命を大切にして。



あの時も。

発作で苦しかったハズなのに。

どうしても笑えない私に、笑顔で。

「すまない…か…」

「なんで…笑えないくらいであやまんのかねえ。」

「おまえは…おっかしいなァ。」

そう言うと足を負傷していた私を逃がし、あの人はお坊ちゃまを助けるために燃える屋敷に残った。

最後に見た表情はかすかに微笑を浮かべていた。

まさかそれが最後になるなんて。



お坊ちゃまが屋敷から脱出してきたときに抱えていたのはあの人の左腕。

焼け崩れる屋敷の中でお坊ちゃまを守り、その代わりあの人は居なくなってしまった。

左腕を残して。



武骨だけど優しい人だった。

触れられると何かあたたかいモノが流れてきたのに。

そっとその手のひらに頬を押し付けてみても冷たくなり何も語ってはくれない。

爪は剥がれ、傷だらけで、どんな思いで守ってくれたのか。



短い時間だったけど、一緒にいると遠い昔に忘れてしまった何かを思い出せそうだった。

私のことを人形なんかじゃない、と言ってくれたのに。



あの時、私が笑えていれば。

きっとあの人は今もここにいただろう。



謝らなければいけないことがたくさんあるのに、私の前から去っていってしまった。

私の中に芽生え始めていた「何か」をもって。



笑うコトは出来ないが、少しでも人間に近づいただろうか?

あなたが身をもって教えてくれたコト。


もう一度、あなたと話がしたい。


カトウ ナルミ、あなたに逢いたい…




110907
鳴しろ。ワイド版2巻のあたりと単行本でヴィルマが登場したあたりです。
しろがねは「愛」という感情をいつ自覚したんでしょうか。


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