「え?いや、でも…」
ブルマは慌てるでもなく、もう一度しっかりと検査薬を見直す。
身に覚えはある。あいつとそういう関係になったのだから。
まさかこういう結果になるとは。
ここしばらくの体調不良はそういうことだったのか、と理由がわかれば曇っていた視界が急に晴れた。
「うーん、心のどこかではもしかして、って気持ちもあったけどさー。」
自室でソファに座り、手にしているのはお気に入りの手帳。ここ数ヶ月の体調の変化を確認する。
それにしても自分の”そういうことの相手”がロマンスのかけらどころか、恋や愛についてどれだけ解っているのかも怪しいあいつ、というところが難点、というべきか。
「まぁ、一応報告するべきよね…」
報告しても興味を示さないような気はするけど、相手にも知る権利はある。最終的にどうするかは、多分自分一人で決断しなければならない。と、言っても心はもう決まっている。選択肢はそんなにあるわけじゃないし。
深く考えても仕方ないし、なんかいい方向に動きそうな予感もある。こういう時自分の楽天的な部分が深刻になりすぎる前に気持ちにブレーキをかけてくれる。とりあえずこれからどうするかはあいつに報告してから考えても大丈夫。
カプセルに詰め込んだ食料も、戦闘服のスペアも使い尽くしてカプセルコーポレーションに戻り、いつのように自分に宛がわれた部屋の窓から部屋に入る。
ただ、この日はいつもと違った。
自分が戻るのタイミングが解っていたかのように部屋の入り口に佇んでいた。
「お帰り。あんたに言っておかなきゃいけない事があるの」
ボロボロの戦闘服、体のあちこちに傷。この男は日々自分を追い詰め、高みを目指す孤高の人。そんな生き方って少し寂しいかも、と思う。
「何だ。」
先が見えず、イラついているのが解る漆黒の瞳。
「あたしね、出来ちゃったみたい。」
「…なにがだ?」
本当にこういう方面はとことん鈍い。だからはっきり言わないとまったく伝わらない。
「あんたとあたしの赤ちゃんよ。」
「?!」
さすがに衝撃だったみたいで絶句している。
「あのね、産むから。別にいいでしょ?」
悟飯くんのようにサイヤ人のハーフがこの地球上にもう一人増える。それはなんだかとてもいいことのように思う自分がいる。
「…好きにしろ…」
そういうと、フイと部屋をでてダイニングの方へ行ってしまった。想像していた通り。でも、その後ろ姿がなんだか照れているように見えたのは気のせいかしらね。あいつの本心は分からないけど、少なくてもあたしと、父さんと母さんはアンタが生まれてくるのを楽しみしているから。
早く大きくなって出ておいでね。
111014
トラ御懐妊話。このときは甘い雰囲気ではなかったはず。
そんな状況下でも彼女は命をはぐくみ、産み育てる決意をベジータに伝えていると思います。
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