028. 父兄参観


ここは西の都のとある小学校の1教室。授業が始まってからそーっと入ってきた二人組み。紫の髪にハンサムだけど鋭い目付きの長身で父親というにはまだ若い青年と特徴的な黒髪で目付きが鋭く精悍な顔立ちの男性がピリピリと異様な雰囲気を放ってた。

周りの大人たちはどう接していいものやら、はたまたどの生徒の親なのか、解らず遠巻きに見ていた。

ざわざわする視線に黒髪はまったく同ぜず、紫の髪の若者は居心地悪そうにしていたが。










話は戻ること数日前。

カプセルコーポの中である事件というか、揉め事が起きる。

それは一通のプリントからはじまった。


「ねぇ、いいじゃないの。」

ブルマはベジータにそんなにあることじゃないんだから一度くらいいいじゃないの、と詰め寄る。

「あんた、どうせ働いていないんだし、こういうときくらい父親らしい事しなさいよ!」

ずいっ、と件のプリントをベジータの胸元に押し付ける。

「な、なんで俺が学校に行かねばならん…」

妻に詰め寄られてじりじり後ずさる。

「父兄参観ってそういうものなのよ!あんた、トランクスのときは一度も行かなかったじゃない!」

アタシは授業参観のときはトランクスのときも行ったわよ、と更に詰め寄る。

そのときブルマはふと閃く。

「そうだ。トランクス。あんたも行きなさいよ。父兄だから問題ないでしょ。」

寝耳に水とはこの事。両親の掛け合いを遠巻きに見ていたトランクスはいきなり矛先が自分に向いて思いもよらない言葉に盛大にコーヒーを吹き出した。

「げほっ…ママ、な、なに言ってんのさ。俺、まだ学生だよ?」

ゲホゲホと咽ながら無駄だと思いつつ反論する。

「あら、あんただって暇じゃない。父兄参観は日曜なんだし、どうせあんた、予定ないでしょ?」

それじゃ、ベジータのお守り、頼むわ〜と手をひらひらさせてラボへと消えてしまった。困りきったトランクスと、眉間にしわを寄せいつもより渋い表情の二人を残して。

どうしたものか、とトランクスは思案に暮れる。どうせ自分が言ったってパパが動くわけ無い。結局自分一人父兄参観に出て、後でママ、ブルマの小言を聞くことになるんだろう、とうな垂れていた。

そんな重く暗い空気が流れるリビングにひょっこりとブラが現れた。そしてベジータが手にしているプリントをみてぱぁっ、と顔を輝かせた。

「パパ!明日の参観来てくれるの?嬉しい!」

そう言うとベジータに抱きつく。抱きつかれたベジータはまんざらでもない表情で、キラキラと目を輝かせて自分を見上げる”パパが来てくれる!嬉しい!”と全身で喜びを表す愛娘にかなうわけがなかった。力なくがっくりとうなだれると「あぁ、ちゃんと行くよ…」とブラに告げるとふらふらとリビングを出て行った。










そして冒頭に戻る。

当日の朝、満面の笑みを浮かべて「パパ、父兄参観来てくれるの待っているから〜♪」とニコニコ登校していくブラを見送り、パパはしぶしぶスーツを身に纏い、俺にもカジュアルでいいからスーツを着るように指示する。もちろん、言うことを聞かなければ小遣い半分の呪文付き。そしてそんな俺たちを笑いをこらえてママは見ていた。

ママはいってらっしゃい、というとパパのネクタイを直してあげてほっぺにキスしてた。いつものことだけど。

パパの運転するジェットフライヤーで学校に向かう。校庭の隅に着陸するとカプセルに戻し、ブラの教室に向かった。俺にとっては過去に6年間通った懐かしい場所。造りもよく解っている。プリントに書かれていたブラの教室の場所もばっちり。パパを案内しようと振り返ると既に俺の先をスタスタ歩いていた。

「パ、パパ!ブラの教室わかるの?」

この校舎は案外広くて教室があちこち分散されている。見当違いのほうに行くと結構難儀だ。

「フン、お前、トレーニングをサボっているからだ。気を感じないか?ブルマよりずっとはっきりしている。」

そう言われればちょっと注意すれば感じる妹の気。最近すっかりトレーニングをサボっているのが変なところでばれてしまった。パパはブラの気を頼りにさっさと教室を見つけてしまった。

そーっと覗いてみれば他の子のお父さんたちが既に何名か来ていて子供たちの様子を見ていた。ブラもきょろきょろしていたものの、突然ハッ、とした表情になると笑みを浮かべた。多分パパの気に気がついたんだろう。張り切って授業に参加し始めたから。

静かに教室の中に入る。自分のときはママが忙しい合間を縫って来てくれていたっけ。まぁ、別にパパに来てもらわなくても俺は気にならなかったけど。それにしてもブラの張り切りようったら無い。こういうことにはまず参加しないパパが来たんだもんな。

パパをこっそり見れば不機嫌そうな顔してるけど、口の端が持ち上がって実は笑みを浮かべている。ブラが嬉しそうにしているから多分それで嬉しいんだと思う。それにしてもどうして俺も来なきゃいけなかったんだか。パパだけで十分なのに。まぁ、校舎壊されるようなことになったら困るし、いざという時の保険でついて来させられたんだろうな、俺。でもブラのあんなに楽しそうな顔も見れたし、「兄」としての役目は十分果たしたかな。

父兄参観も無事終わり、終礼と共にブラはパパに駆け寄り足元に抱きつく。

「パパ、見てくれてた?ブラ、ちゃんとお勉強してるでしょう?」

ニコニコと恐持ての父親を見上げる。周りの親は意外な組み合わせにぎょっとしている。俺は思わず苦笑してしまった。パパはまったく気にする風もなく、ブラの頭をなでると「あぁ、ちゃんと見てたぞ。」と言うとひょい、と抱き上げる。

「帰るぞ、トランクス。」

そういうとブラを抱きかかえたパパはさっさと教室を出ると、ふわり、と浮いたかと思ったらさっさと飛んで帰ってしまった。

ある意味別の意味でスケープゴートと化した俺を置いて。みんなの視線が痛いよ、パパ…






帰り道、ブラがパパに言った「お友達のパパよりもうーんと格好よかったよ、パパ!」この言葉でしばらくベジータが上機嫌だったのは言うまでもない。






111025

娘の参観に行くように岩言われてごねるベジータ。
でも結局は愛娘から直接のお願い攻撃であっけなく陥落な訳です。
ホント、ブラちゃん最強。

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