精 霊 祭 <後編>
私とトラップは必死に青白い光を追いかけた。
意外と移動する速度が速くて。見失わないように必死だった。

どのくらい追いかけたのか。かなり森の奥まで入り込んでしまったような気がする。いくら方向音痴の私にもそのくらいは解る。でも不思議と不安を感じないのはトラップと一緒だからだろう。なんだかんだ言いつつも頼りになるんだよね。

いきなりトラップが立ち止まって私は止まりきれず思いっきり背中にぶつかってしまう。

「いったぁ〜…急に止まら…」

そう言いかけたのを遮るように口を手で塞がれてしまう。そして耳元で、

「静かに…あっち見てみろよ…」

そう言ってトラップが指さした方には。

青白い光に包まれたルーミィの姿があった。

幸せそうに微笑んで安らかに眠っているルーミィ。

そしてそのルーミィを慈しむかのように青白い光が強く弱く光り輝く。ふわふわのシルバーブロンドが光に照らされてとてもきれいだった。

そしてそのとき私たちは確かに聞いた。微かな、本当に微かだけれど、はっきりと「ルーミィ、愛しい子…」と光が発する言葉を。

「ト、トラップ今の聞こえた?!ルーミィ、愛しい子、って!」

トラップも呆気にとられている。私たちは何が起きているのか理解できなかった。こんなときキットンがいてくれたら何か解ったのかもしれないけど。私はとたんに不安に駆られた。確かに「愛しい子」って言っていた。ってことはもしかして連れて行かれちゃうの?ルーミィ。そんなのイヤ。そう思ったとたん自然と溢れてくる涙を止めることができなかった。

ぽろぽろと泣き出した私を見てトラップは何も言わず強く手を握り締め、ルーミィのいる方にずんずんと私を半ば引きずるようにして進んで行く。

「トラップ!やめて。なにするのよ!」

手を振り解こうともがいたけど振りほどけない。逆に痛いくらい握られた。

「おまえ、このままルーミィが居なくなっちまってもいいのかよ…」

ふとトラップの顔を見れば苦い顔をしていた。ルーミィがこのまま居なくなっていい訳がない。私たちは他人だけど「家族」なの。誰かが簡単に欠けて言い訳が無い。みんなが納得して巣立っていかなくちゃ。

そう思って前を見たとき「うわっ!」とトラップが小さな叫び声を上げた。私もびっくりしてトラップのさらに前を見ると、いつの間にか青白い光は女性の姿に変わっていてルーミィをその胸に抱きしめていた。私たち二人はその美しさに思わず見とれしまっていた。

どのくらいその光景を眺めていたのかよく解らない。けどルーミィとその女性はとても幸せそうで。触れては、見てはいけなかったような気分になってしまう。ささやかな幸せの時間を犯してしまったような罪悪感に駆られる。そのくらい安らかで満ち足りた雰囲気が二人を包んでいた。

そんな事を考えていたらその女性がふとこちらを見てにっこりと微笑んだ。自分たちがどのような状況に置かれているのかさっぱり理解できていなかったけど、その微笑は彼女に敵意がまったく無いことを私たちに理解させてくれた。そして頭の中に涼やかな声が響く。




…この子のことを大切に慈しんでくれてありがとう…


…この子、ルーミィのことがとても気がかりだったのよ…


…幸せ、なのね。


…よかった。あなたたちに出会えてよかったわ…


…こんなにもルーミィを気遣って心配してくれて…




…ありがとう…





そういってルーミィにほお擦りする彼女の瞳には一粒の涙が浮かんでいた。

そしてそれを隠すかのように明るく周りを照らしていた月が雲に隠れてしまった。






















「パステル!おい、起きろよ!」

ん〜、なによ、いい夢見ているのに…もう少し寝かせて…

「パステルおねえしゃん、朝デシよ。」

うつらうつらしているとほっぺたに冷たい感触。
びっくりして飛び起きると黒い目をくりくりさせたシロちゃんが起こしにきていた。

っていうか昨日の夜トラップと私はいなくなったルーミィを探して?

ルーミィは?とあわててみれば自分のすぐ横にまだすうすう寝息を立てて眠っていた。
けれどその手には、涙色の真珠のようなものがしっかりと握られていた。

ルーミィ、と声をかけるとうっすらと目を開けて「ママの夢みたぁ…」とつぶやいてまた眠ってしまった。















後日私はキットンに話をしてみた。

夢か現実なのかあいまいだったけど。

キットンは黙って話を聞いてくれてそしてこんな話を教えてくれた。



満月の夜、ある条件が揃うと精霊たちが地上に降りてくると言われているんです。

精霊は人間界とは違うところに存在していて二つの世界は普通なら交わることは無いんです。

けどごくまれに条件が揃うと精霊たちが地上に降りてくるんです。

この現象を「精霊祭」と呼ぶんです。

月のやさしい魔法ですよ。

体験できるのはそうとう珍しいんですよ。

きっとパステル達が体験したのはその「精霊祭」だったのでしょう。

そしてキットンはふと思いついたように、

ルーミィの親は精霊界に逃れたのかもしれませんね。

もともとエルフは精霊に近い存在ですから。

けど苦渋の決断だったかもしれませんね。

二度と娘に会うことが叶わないかもしれなかったのに。

けれどたまたま人間界に道が開いてこちらに来ることが出来たのでしょう。




キットンの推測が当たっているなら。

いつかルーミィはお母さんと逢える時がやってくるのかもしれない。
その時も一緒にいられたらな良いなと、ふと思った。





031119
ようやく精霊祭終了。
ルーミィ編を意識したのだけどなんとなくトラパス。
当初のプロットを忘れているせいで非常に苦労しました。
本当はこんな風になる予定じゃなかったのだけど。