Impatiently
この気持ちに気づいたのはいつの事だったんだろう?

何時の間にかこんなにもあの人が気になるなんて。

気がつくといつも目であの人の姿を捜している。

あの人はわたしなんて見ていないのに。

そう思うと悲しくなってくる。

でも。目が離せない。

彼の言葉に、仕草にいちいち目がいってしまう。





はじめて意識したのはきっとあの時。
そう、あれはみんなで冒険を始めて2年くらいたった頃。
ちょうどジュン・ケイと出会ったころ。
クレイがオウムにされてしまってそれを戻すために奔走していたとき。

崖に行く手を阻まれてどうしようと悩んでいたとき、
結局シロちゃんにお願いして崖の上にあげてもらうことにしたんだけど、
すでに時間も遅かったので翌日作戦決行、ってことになって。
わたしはルーミィとシロちゃんの横で毛布に包まって眠ろうとした。

けど、そのときはなぜか眠れなくて。

そしたらあいつが話し掛けてきて。珍しく自分の方から昔話を始めたんだ。
幼い頃は今からは想像もできないけど、ぽっちゃりしていて、
そのためにハードな修行があった事や盗賊という事での偏見にあったこと、
そして、そんな中で友達になったクレイのこと。

クレイが結果的に自分の身代わりになってしまった事がよほど辛かったんだろうな。
このふたりは本当に親友なんだな。ちょっと羨ましいかも。
わたしのそんな気持ちを知ってか知らないでか解らないけど、
トラップによるクレイの昔話が続いていた。

そのとき見ちゃったんだ。トラップの目にきらりと光るものを。
一瞬目が離せなくて。でもすぐに見ては、気づいてはいけなかったような気がして。
わたしはあわてて眠ったフリをしたんだ。
そしたらトラップはため息ひとつついてから、毛布をわたしにかけてくれた。


あのときはじめて男の人の涙を見たような気がする。
そして不謹慎にも男の人が静かに涙する姿を見て、とても綺麗だとおもったんだ。
本人には絶対いえないけども。



「おい。」

ふと顔をあげると。そこには少し不機嫌な顔をしたトラップがいた。

「…なに?」

人が考え事してるのに。

「なに、じゃなくて。その鍋。へいきか?」

そうだった。今日はわたしが食事当番で、カレーを作っている最中だったんだ。
鍋からはいや〜な匂いが。

「ああああああぁぁぁぁ…!こげてるぅ!!」

はぁ。久々にやってしまった。なんかついてないなー。
一度中身を捨てて(とてもじゃないけど救出できるような状態じゃなくて。)
鍋を洗ってもう一度始めから作り直す。
また6人分の材料を切るのか…う〜ん、大変。
ため息をつきながら芋に手をのばして皮をむき始める。

「もう。もっと早く声かけてくれればよかったのに。」

「あ?おれがここに来たときはすでに匂ってたぜ?」

しゃーねーなぁ…と言いつつトラップはもうひとつのイスに腰掛けると
芋を手に取ってナイフでくるくると器用に皮をむいていく。
わたしより大きな手。その中で芋がくるくる踊っている。
その仕草が色っぽく見えて。なんだか心臓がどきどきいってきた。


芋の皮を剥く音だけが聞こえる。この雰囲気のせいだろうか。
前から気になっていた事を聞いてみる。

「ねぇ。トラップって今気になる子、いるの?」

ゴトッ…

「はぁ?唐突になんだぁ??」

あまりの突然の問いかけにビックリして芋を落としてしまっていた。

「え…いや、ちょっと…トラップってもてるからさぁ、どうなのかなーって思って。」

ちらりとこちらを見ると、

「そういうパステルはどうなんだよ。ん?」

明るい茶色の瞳で見つめられる。

「え…いやぁ…その…」

そんな真っ直ぐ見つめられると心臓がぎゅう、って痛くなる。
不意にトラップが、

「いるよ。気になる奴。」

ああ、やっぱり。真実が知りたいけど、知りたくなかった事。

「ふ、ふーん…わたしの知ってる人?」

「ん…まあな。そんなとこかな。」

やっぱり聞かなきゃよかった。
わたしが知っている、ってことはマリーナかな。ふぅ、と思わずため息が漏れる。

「んで、おまえはどうなんだよ。おれは言ったんだからな。」

「うっ…」

トラップはことのほかまじめな顔でわたしを見ていた。
からかわれるかと思っていたんだけど。そういう真剣な態度に弱いんだよな…わたし。

「ほれ、いってみそ。」

せっつかれてようやくわたしは覚悟を決めてぽつりと

「いるよ…気になる…ううん、好きな人。」

「えっ!!」

なによぉ〜そんなに驚かなくたっていいじゃない。まったく。

「…そんなにヘン?」

「え…いや、そうじゃなくて…」

どうしたのかな?なんか少し変。なんかそわそわしてる。

「…誰なんだ?…クレイか?」

「ふぇ?なんでクレイがでてくるのよ!」

「じゃあおれの知ってる奴かよ。」

「うん。トラップが良く知っている人。」

「おれが良く知ってる奴???」

ありゃりゃ。考え込んじゃったよ、この人。ま、クレイ以外でよく知ってる人、って言ったら、ねぇ。

「まさか…キットン、じゃないよなぁ。」

ずるっ…信じられない!どうしてそうなるの?

「…違うわよ!キットンにはスグリさんがいるでしょ!もう。」

「じゃあノル?」

ふぅぅ…そうきたか。

「違うわよ…」

なんだかな…もう。

「じゃあ誰なんだよ?あと他におれの良く知ってるやつなんて…」

あーあ、悩んでる、悩んでる。
肝心の人、忘れてません?ねぇ、トラップ。わたしは心の中でそっとつぶやいた。
そして勇気を総動員して、一言。

「ねぇ。わたしの好きな人がトラップだよ、って言ったら信じる?」

「……マジ?」

信じてないな…こいつ。この一言のためにどれだけ勇気がいった事か。

「ねぇ。わたしは言ったよ。トラップもおしえてよ。」

「え…いや、その…おれは…」

「おれは?なに?」

「だーっ!なんでこんな話になったんだ?」

「いいじゃない!教えてよ!」

きっ、とこちらを見て一言。

「知りたいか?」

「うん、知りたい。」

「後悔しないか?」

後悔?なんでだろ。

「しないよ。だってこのまま解らないほうがいやだもん。」

「…じゃあこっちにこいよ。」

わたしは言われるままにトラップに近づく。目の前まできて、

「来たよ…教えてくれるっ…きゃっ」

急に腕を引っ張られて。気がつくとトラップのひざのうえにちょこんと乗っかっていた。

「な、なに?」

目の前には真っ直ぐにわたしを見つめるトラップの明るい茶色の瞳があった。

「ト、トラップ?」

「パステル、後悔しない、って言ったよな…」

その言葉が終わると同時に唇に柔らかな感触。

え?今のこれって?もしかしてキス、しちゃったの?トラップと?
うそ。だってトラップの好きな人ってマリーナじゃなかったっけ?
頭のなかで色々な事がぐるぐると回りだす。

「トラップ?いま…」

やっと言葉が出てくる。

「…これが答えだよ。」

「うそ…ほんと?」

「うそついてどうすんだ?こんな事。」

「だってトラップが好きなのはマリーナ…」

言い終わらないうちにまた唇を塞がれる。

「これでもまだそんなこと言うのか?」

2度目のキスの後。
嘘みたい。ホントだよね。信じていいんだよね?
そう感じた瞬間。涙が溢れてきた。悲しいからじゃない。
もちろんイヤだったからでもなく。嬉しかったから。気持ちが通じたことが嬉しくて。

「泣くなよ…悪かったよ…」

「違うの…嬉しかったの。信じていいんだよね?その言葉。」

トラップを見上げたら、とても優しい顔で。

「ああ…もちろん。」

そう言って涙を拭ってくれた。


そしてもう一度わたし達は唇を重ね合わせた。とても幸せな気持ちで。



ぎゃ〜!!なんだ?このオチは?!許して〜!
でも。トラパス。
これはパステル誕生日記念なので、パステルがしあわせならOK。
他の人たちのことは知りませんです。ハイ。
もっともっとあま〜いのが書きたいです。要勉強、ってことで。