月のいたずら
俺たちはガイナから少し足を伸ばして故郷であるドーマまで足を伸ばしていた。
なぜかって?
ま、たまには懐かしい顔を見に、一度それぞれの故郷へ行っておこう、ってことになったのさ。
・・・要するに俺たちの夏休み、ってとこかな?

ノルとキットンとは別行動となった。1ヵ月後にエベリンで合流する予定だ。
そこで俺たち、クレイ、パステル、ルーミィ、シロ、
そして俺、トラップの4人と1匹でガイナとドーマに向かうことになった。

パステルの故郷であるガイナに2〜3日滞在した後、ドーマの方へやってきた。

ここ、ドーマではパステルとルーミィとシロは俺の家に泊まっていた。
ま、わざわざ金を出して泊まる必要もないしな。
それに・・・なんだ、その・・・。いや。やっぱりいいや。


よく晴れた日。
久々に俺は何の心配事のないこの休暇を有意義に過ごすため、木陰で昼寝と決め込んでいた。

こんな気持ちのいい日に家の中にいるのは勿体無いような気がして。

草の上に寝転がると風がほほを撫でていく。
「こんな日はやっぱり昼寝にかぎるな。」
誰に聞かせるわけでなく。
「・・・パステルが見たらまたうるせーんだろうなー」
そんなことを考えていた。

「にしてもいい天気だぁ。」
ぼーっと空を見上げる。
どこまでも広がる青い空。
あ〜ねむてぇ・・・・。





人の話し声で目が覚める。
あたりを見渡すと、すでに暗くなっている。

寝すぎちまったか。
・・・ちぇ。捜しにきてもいいんじゃねーの?まったく。ほんと、つめてーの。
あーあ、と空を仰げば。見事な満月。
「すげぇなぁ・・・。」
パステルじゃないが、あまりの見事さに思わず声をあげる。

ふと視線をずらすと。月明かりの中、2つの人影。

その二人を良く見てみると、女の方はパステルだった。
・・・じゃあ、男の方は。クレイだ。

・・・おもしろくねぇ。パステルもパステルだ。
クレイに頼む前に俺に声、掛けたって・・・って、黙って出てきたからな。にしても気になる・・・
俺はこっそり二人の後についていくことにした。


「ねっ、ひどいでしょ?」
「くっくっくっ・・・・あいつらしいんじゃないか?」
「・・・もう。」
「ま、許してやりなよ。本当はそんなに怒ってないんだろ?」
「まーね。でもくやしいじゃない。」

風にのって話し声が聞こえてくる。
・・・なんか好き放題言われているような・・・。


二人は楽しそうに喋りながらどこかへ向かっているようだ。
気づかれないように細心の注意をはらって二人の後をつける。

・・・どこまでいくんだ?

そんな事を考えながら二人の跡をつけていたが。何かおかしいような気がした。

「なんかヘンなようなきがするな〜」
そう。二人をよくよく見ると。何か変なのだ。パステルとクレイであることには違いないのだが。
何処に違和感を感じるのか、考えながら二人の跡をつけていく。

・・・あれ?家に戻るんじゃないのか?
クレイは自分の家の方に滞在していたが、パステルは俺の家に泊まっている。
なのに家の前を通り過ぎる。
そのまま町外れまで来てしまう。そこには家が一軒建っていた。

・・・こんなトコに家なんかあっか?変だな。
そんなことを考えていたが、パステルが家の前についたとき、
扉が開いて、小さな影が飛び出してきた。

それはトシはルーミィと同じくらいか少し幼いか。
家の中の明かりに金色の髪が照らされて光っている。
「ママァ、おかえりなさい!」
その子はパステルに飛びついた。

・・・は?ママ、だと?あいつが?
頭の中である仮説にたどり着く。でも、まさか。

「お。まだ起きてたのか?」
クレイがその子をひょい、と抱きかかえる。

・・・ま、まさかクレイとの。いいや。まだ解らない。

「くれぇいだぁ。」
女の子はクレイにだっこされてご満悦だ。クレイの奴もにこにこしている。やっぱ、そうなのか?
チクリ、と胸が痛んだ。その光景を見ているのが辛くなってきて。

ふと、視線を戻したとき、クレイとパステルの影が重なっていた。
ああ、やっぱりそうか。

そのとき。

ピシッ!

「あたっ!」
クレイの小さな悲鳴が上がる。どうやら頭に何かがぶつかったらしい。

「ったく。かあちゃんにそういう事していいのは俺ととうちゃんだけなんだよ!」
・・・とうちゃんの言った通りだぜ。油断も隙もあったもんじゃねえ。
そうつぶやきながら家の中からパチンコを手に少年が出てきた。
その少年の髪は少し金色がかった赤い髪をしていた。

「ひどいな〜そこまでしなくてもいいだろ?おでこにキスくらいでさぁ。」
クレイは女の子を降ろすと頭をさすっている。そしてパステルに、
「まったく、あいつに似てきたな。」
と、ニヤッ、と笑った。
「ごめんね。」
とパステルは苦笑した。
「かあちゃん、さっさと家に入ろうよ。俺がとうちゃんに怒られちゃうじゃないか。」
少年はパステルを家の方にぐいぐい押している。少年に押されながら、
「送ってもらったのに、本当にごめんね〜後でよく言い聞かせておくから〜あっ!マリーナによろしく〜」

バタン!
クレイが返事をする前に扉が閉められてしまった。
「くっくっくっ・・・。ホント、年々あいつに似てくるよな〜照れ屋なとこまでそっくり・・・。」
しばらく家の前でクレイが笑っていたが、やがて来た道を戻っていった。


・・・そうか。クレイじゃないのか。そして、あの少年の髪の色。もしかして。
ぼんやりとそんな事を考えて。もし、そうなら、と心臓がドキドキ言っている。

確かめるか?どうしようか。
とりあえず、こっそり窓辺に近づいて家の中をそーっと覗いて見る。

・・・まるでコソドロみたいだよな〜天下のトラップ様が。
自重気味にふとそんなことを思う。


「家に何のようだ?」
不意に背後から声を掛けられた。

?!・・・俺が気が付かないなんて。

おそるおそる振り向くと、細身の男が立っている。
顔はよく見えないが、月明かりに照らされた赤い髪が目に付く。

・・・赤い髪?ま、まさか・・・

赤い髪の男は、
「よう!ステア・ブーツ。」
俺の名前を呼び、ニヤリと笑う。
「・・・!?」
なんでこいつ俺の名前を知ってるんだ?

・・・はっきりいって俺はあせった。俺の本名を知っているという事は・・・。
そんな俺の様子を見て、
「まあ、あせるなって。それより窓を見てみろよ。」
男に促されて再び窓に目をやる。
そこには二人の子供とパステルの姿があった。

「なぁ。あいつ、幸せそうに微笑んでるだろ?」
男が声を掛けてきた。
そう言って家の中のパステルを見つめている。

「・・・ああ。」
返事を返す。たしかに子供に囲まれてパステルは極上の笑みを浮かべていた。

「俺はあいつというこの世で一番の宝を手に入れた。この宝は誰にもゆずれねぇ。」
そいつはニヤッ、と笑って俺の方を見た。俺はなにも言わなかった。いや、いえなかった。
「俺は最高の宝を見つけた。次はおまえの番さ。諦めるな。相手の気持ちを確かめるまでは。」
いいか、と男の目には真剣な光が宿る。
「あいつはものすごい鈍感なんだ。おまえも知ってる通り。」
そこで肩をすくめ、ふぅ、と大げさにため息をつく。
「・・・だからちゃんと言葉と態度でしめしてやらねぇと解らねぇ奴なんだ。
おまえももう少し自信をもてよ。そう捨てたもんでもないぜ。俺たちは。」

・・・やっぱりそうか。

「いいか、諦めるなよ。じぁな。」
そう言って男はさっさと家に入ってしまった。

「あっ!おかえりなさい、パパ。」
「お帰り。とうちゃん。」
「お帰りなさい、あなた。」
「ああ、ただいま。」
窓の中にはまさに俺の理想が詰まっていた。ふと、家の中のあいつがこっちを見てニヤッ、と笑っていた。
・・・くそっ。負けないぞ。俺だって。そう思った。

そのとき。
ふっ、と空が翳る。
月を見上げると徐々に暗闇の中に隠れていく。


見る見る間に暗闇に飲み込まれていった。






「トラップ、トラップてば。」
はっ、と気が付くとパステルの顔が目の前にあった。
「もう。さんざん捜したんだから。もう夜だよ?」
ぷぅ、と頬を膨らませている。

「せっかく皆でお祭りいこう、って約束したのに。」
すぐどっかいっちゃうんだから・・・と文句を言っている。

「悪かったな・・・。」
「素直なトラップって・・・何か企んでないでしょうねぇ。」
「ンな訳無いだろ。俺だって素直に謝る事だってあるんだよ!」
「だぁって。さっきから何かボーっとしていたからまた何かいたずらを考えているのかな〜って。」

がくっ・・・はぁ。こいつは。俺の気持ちに気づいているんだろうか。んな訳ねーよなぁ。


「みんな待ってるよ。早く行こうよ。」
パステルが早く、と手招きしている。

「ちょっとこっちこいよ。」
「なぁに?」
近づいてきたパステルの腕を掴み、ぐい、と引き寄せる。
すっぽりと俺の腕の中におさまったパステルが抗議の声を上げた。
「きゃあ。なにすんのよ!」

「・・・・・・・。」
耳元で囁く。
なぜだか、すんなりと言葉が出てきた。

「え?も、もう一度いって・・・。」
同じ言葉をもう一度、囁いた。
「好きだ、パステル。」
一瞬目を見開き、見る見る赤くなるパステル。

「・・・私もだよ、トラップ。」
赤くなりながらパステルは答えてくれた。

始めて素直になれた気がした。
・・・そうか。素直に気持ちを伝えるだけでよかったんだ。




パステルが空を見上げる。
「ねぇ、みて。」
そう言って月の方を指差した。

そこには。
見事な満月がぽっかりとうかんでいた。




うぎゃ〜っ!!!トラパスです。とうとうFQ物を書いてしまいました。
いかがでしたでしょうか?次はきっと、きっともっとあまあまな物を・・・。
00/12/29