虹色の夢。
これは女の子同士の秘密よ?
いつか試して御覧なさい?


おかあさんはどうだったの?


ふふっ。それはそれは素敵な夢を見たわよ。

あなたもきっと素敵な夢を見れるわよ。



















「ぱーるぅ…こっちきれいだぉう!」

「るーみぃしゃん、まってくださいデシ。」

「ルーミィ、走ると危ないよ。」

ルーミィってばあんなにはしゃいじゃって。転ばなきゃいいんだけど。

今日はね、お天気もよかったから、お弁当を作ってみんなでピクニックにきたんだ。

この間たまたま見つけたんだよねー。このお花畑。

(トラップいわくいつも道理迷ったんだろ?だって。失礼よね!)

ふふ、ルーミィなんてあんなにはしゃいじゃって。

つれてきてあげてホント、よかった、なんてニンマリしてると。

ぽかっ、と頭を叩かれた。

「なにニマニマしてんだよ。気持ち悪いなー。」

「なによ〜何も叩くことないじゃない!」

わたしがぷぅ、と頬を膨らまして文句を言うと、

へーへー、と手をひらひらさせながら逃げていく。

「…もう。トラップてば。」

まぁ、正直に言えば、たしかにわたしが例のごとく道に迷った結果見つけたお花畑。
しかもそのわたしを捜しに来てくれたトラップが道を覚えていたんだけど。
だからこうしてピクニックができる。…わたしってマッパーのはずなんだけど。うう、情けない。

わたしは気を取り直して、お昼の準備を始める。

野原にシートを広げて。籠の中から作ってきたものを取り出して並べる。

サンドイッチにマトマとクスパラのサラダ、それにから揚げ。

あとはおかみさんが持たしてくれた、あたたかいスープと紅茶。

うん、きっとこの青空の下、みんなで食べるお弁当は美味しいに違いない。

「みんなー準備できたよぉー!」

思い思いに過ごしているみんなに声をかける。

「るーみぃ、おなかぺっこぺこだおう!」

早速ルーミィがノルとクレイとこちらにかけてくる。

シロちゃんはノルの肩にちょこんとのっていた。

キットンも両手になにやら紫とオレンジのだんだら模様の妖しげな植物をもって機嫌よく戻ってきた。

「…なに、それ。」

わたしがおそるおそる聞くと


「ああ、これはですね、いまの時期だけ生えている貴重な薬草なんですよ。
時期がずれると値上がりしてしまうので今のうちと思いましてね。」

満足そうな笑みを浮かべてキットンが答えてくれた。

「ふ〜ん…」

ま、いいっか。何に使うものかまで聞かなくても。

さて、お弁当を食べようと思ったら、あいつの姿がない。

もう。肝心なときに居なくなるんだから。

しかたないからルーミィをクレイにたのんでわたしはトラップを捜す事にした。
ルーミィはすでにサンドイッチにかじりついていた。
う〜ん、すごい食欲。わたしがトラップを連れてもどるまで、残っているか不安。
ま、いいけど。おいしい、って食べてくれるならさ。

「どこに行ったんだろう?」

周りをぐるりと見渡すと。
すこし離れた処に一本の木が生えていて、何とも気持ちよさそうな木陰が出来ていた。

「…あそこだなぁ!」

ずんずん木陰目指して歩いていくと。
そこにはトラップが気持ちよさそうに眠っていた。
とりあえず起こさないようにそっと近づいた。あーあ、幸せそうな顔で寝てる。
いつもは意地悪な言葉がぽんぽん飛び出す口も静かだ。
こうしているとトラップもなかなかカッコいいんだけどね。さて。起こすとしますか。

「トラップー、起きてよー。みんなもうご飯たべてるんだよ!」

声をかけて身体をゆすったけど起きる気配なし。んもう。諦めずにもう一度チャレンジ。

「起きてってば!ねぇ!」

さらにトラップをゆさゆさとゆすった。

「うん…」

起きたかと思ったけどだめ。今度は耳元で、

「ねぇ、トラップ、起きて。」

と言った瞬間、ぐらり、と視界が傾いて。
何が起きたのかと思ったけど、はっ、と我に返るとトラップの腕の中にいたのよ!!
どうやらトラップてば寝ぼけているみたい。
逃げようともがいたんだけど、逃げられない。
どうしよう…顔が赤くなってきているのが自分でも解る。
心臓もどきどきいってきた。わーん、どうしよう。

「トラップっば〜起きてよぅ!」

「…うるせーな。人が気持ちよく寝てたのに。」

「…起きたんなら離してくれない?」

「い・や。」

「どうしてよー?!」

「どうしても。」

ええっ!どういうこと?なんで?どうして?頭の中が混乱してくる。

「お弁当なくなっちゃうよ?」

やっとでた一言。

「いいよ。別に。」

ええっ!うそっ。珍しい事もあるもんだ。…なんて悠長に考えてないで。この状況を何とかしないと。わたしが必死に考えていると。

「ばぁーか。本気にした?」

ぱっ、と手を離し起き上がった。
いつものニヤニヤ笑いをしながらわたしの顔を覗き込んできた。
…もう。知らない。ぷいっ、と目をそらしてその場にトラップを残してさっさとみんなの所へ戻る。
背後から「まてよー」、って声を無視してやった。


みんなのところへ戻ると、お弁当はほとんど残ってなくて。
かろうじてサンドイッチが残っていた(クレイが取っておいてくれたんだ。)だけ。
あーあ、他のものも食べたかったな。
ルーミィはお腹がよくなって眠くなったらしく、ノルが抱っこしていた。

「災難だったな、パステル。」

「ん?ま、まあね。でも残さず食べてくれてよかった。作ったかいがあるよ。」

「そっか。ならいいんだ。」

やっぱりクレイは優しいね。誰かさんと違ってさ。ちらりとトラップの方を見た。
そんなわたしの視線にもまったく気がつかないようで、サンドイッチをもくもくと食べていた。
まあ、いいけど。慣れっこだし。また今度みんなで来ればいいしね。
と、そのとき。さっきまで青空だったのに何時の間にか雲が立ち込めて。
ぽつぽつと雨が降り出してきた。

「雨だ!とりあえずかたずけてあの木陰で雨宿りしよう。どうせ通り雨だと思うし。」

クレイの提案道り、わたしたちは大急ぎでかたずけて木の影に逃げ込んだ。
たしかにクレイの言った通り、空の向こう側は青空が覗いている。
この時期は通り雨とか、夕立はしかたないよね。
雨宿りもはじめて10分経ったろうか。雨がやんで太陽が顔を覗かせた。

「おっ!見ろよ。」

トラップの声に、指さしている方を見ると、見事な虹がかかっていた。
いつ目が覚めたのかルーミィも起きていて、

「きえいだぉ!」

「きれいデシ…」

「すごいな…」

「こんな綺麗に出ているのはめずらしいよな。」

「ふっふっふ。良く見てください。
虹の上にもうひとつ虹がかかっているでしょう?
なかなか珍しい現象で「複虹」とよばれているはずです。
で、その二つ目の虹は一つ目と色の並びが逆になるんですよ。
さらにもうひとつ掛かって三重の虹になる事もあるんですよ。
そのときは一つ目と三つ目の色の並びが同じなんです。」

すごいでしょう?とあたかも自分が虹をかけたかのようだ。

「さすがだな、キットン。」

「まぁ、このくらいは…」

へへへ、と満足そうだ。
そういえば。ずっと前に。そう、あれはお母さんが言ってたっけ。
今日みたいな虹が出た日に虹と同じく七色の花を集めて枕もとにおいて寝ると
運命の人が夢に現れるって。キットンも今日みたいな虹は珍しい、って言っていたし。
われながら子供っぽいと思うんだけど、
このお母さんが言っていたおまじないを試してみる気になった。
早速雨に濡れている花を摘んでいく。

「ルーミィもお花つむぅ!」

そう言ってルーミィもわたしと一緒に花を摘んでいく。
赤、オレンジ、黄、紫……これだけいろいろな花があるから
七色集めるなんて簡単だと思っていたんだけど。
意外と難しい。これが。あと一色、ってところで見つからない。

「なにしてんだ?」

トラップが不思議そうに聞いてきた。うーん、どうしよう。
おまじないの話をしたら馬鹿にされるだろうし。あ、そうだ。

「あのね、今日みたいな虹がでた日に七色の花をつむと幸せになれる、って言うのがあるんだよ。」

「ふーん…で、集まったのか?」

「ううん。あと一色なんだけど。緑の花なんてないよね、やっぱり。」

「ま、がんばれや。」

そういい残してさっさとクレイたちの所に戻っていった。
気がつけば、ルーミィは何時の間にかノルと花冠をつくって遊んでる。

…やっぱりそう簡単に緑の花は見つからないね。

今回も諦めよう。そう思ったとき。

「ほらよ。」

そう言って差し出されたのは淡い淡い薄緑の可憐な花。

「どうしたの、これ。」

わたしはトラップの顔を見た。

「…要るのか?いらねぇんなら投げちまうぞ。」

少しムッとした顔で花を投げる真似をする。

「ああっ!まって、投げないで。ありがとう!!」

半ば強引にトラップの手から花をもぎ取る。

「…まぁいいけどよ。なんで緑の花なんだ?」

不思議そうな顔で尋ねてきた。

「…あのね、笑わないで聞いてよ?」

笑わないで、と前置きをしてから例のおまじないの話をトラップに聞かせた。
幼いときに母親から教えてもらったおまじない。今まで試せなかった事も。

トラップは最後まで笑う事無く聞いてくれた。
内心珍しいことも在るものだな、なんて感心していたんだけど。

「なんで今まで試せなかったんだ?おまえならすぐやってそうだけど?」

うっ…今まで何度も試そうと思ったんだけどさ。花を見つけてきてくれたしね。

「それはね、<緑の花>が見つからなかったから…今回はトラップが見つけてくれたけどさ…」

そう、緑の花が今までは見つけることができなかった。
どんなに探しても緑だけ見つからない。
いつもいつも最後に緑をのこして断念していたのだ。
でも今日はトラップがどこからともなく見つけてきてくれた。

「ね、これなんて花?」

トラップに聞いてみた。

「俺が知るか。あっちに咲いていたから持ってきてやっただけだ。」

そういうとさっさとクレイ達の方に行ってしまった。











翌朝。



目覚めて夢を思い出して思わず目を白黒させてしまった。

「…おかあさん。おまじないは当たるの?だとしたら…」











ふと、思い出した言葉。


…これはお父さんに内緒よ、パステル。

最後の花を見つけてくれたのはお父さんだったのよ。


そういって微笑んだ母を。






030810

凄い久々に創作活動…
みなさま、いかがでしたでしょう…
楽しんでいただければ本望です。