sweet  sweet  Valentine
バレンタインまであと一週間。

このごろシルバーリーブの女の子たちが騒がしい。
なぜ、って?そりゃあバレンタインが近いから。
みんな本命チョコをどうするかでにぎわっている。
そんな中。わたしはある人を待っている。
そのために原稿をさっき仕上げて印刷屋さんに持っていったし。
後は待つだけ。誰かって言うのは…


「パステルー!まったぁ?」

「ううん、わたしも今きたとこ。」

ここはシルバーリーブの待合馬車の停留所。
わたしが待っていたのは。

「これ、遅れたけど、誕生日プレゼント。はいv」

目の前にかわいい花束(ドライフラワーになってるの。)と小さな紙袋が差し出される。
「うわぁ!うれしい!ありがと、マリーナ。」

紙袋を開けると。何本かのリボンが出てきた。

「ふふ、何にしようか迷ったんだけど、これなら冒険中も使ってもらえると思ってね。」
いたずらっぽく微笑んだ。

「大切に使わせてもらうね。」

「ね、例の事、どうなったの?」

「ふふ、ばっちりよ!用意は出来てるの。マリーナが来るのを待ってたんだ。」

「そっか。じゃ、急ごう。」

「うん。」


今日はね、クレイとトラップはみすず旅館のおかみさんに頼まれて、お使い中。
一日一杯かかるはず。ルーミィはキットンとノルにお願いして公園に連れて行ってもらったの。
だから夕方くらいまでは、家にはわたし以外いないという事になる。
この日を狙ってマリーナと約束していたの。
一緒にバレンタインの準備をしよう、って。
あんまり時間がないから、手の込んだものは出来ないけど、
ささやかな気持ちをこめて好きな人に送りたいじゃない。やっぱりさ。


「ね、どうする?」

「うん、簡単なトリュフとね、チェリーボンボンなんてどう?」

「チェリーボンボンなんて作れるの?」

マリーナがビックリしてわたしを見た。

「へへへ…実はリタに教えてもらったの。」

わたしはマリーナにリタに教わった事を教える。

「ふ〜ん。意外と簡単そうね。」

「うん、だけどね、作ってすぐよりは一週間くらい寝かせた方がいいんだって。
そうすると中の砂糖がなじんで美味しくなるんだって。」

「じゃあ、もうぎりぎりの日数しかないんじゃない!」

「そうなの〜。だから今日が最後のチャンスなの!マリーナが今日来れて本当によかった…」

「もう、せわしないんだから…」

「ごめん…」

「ま、時間が勿体無いから早速とりかかろうよ。」

「じゃ、始めようか。」


わたしたちは早速チェリーボンボンを作る事にしたんだ。
さくらんぼは去年からキルシュ(さくらんぼから作ったお酒なんだよ。)に漬け込んであったもの。
これはリタから譲ってもらったの。あとは砂糖にコーティングするためのチョコ。
作業はいたって簡単。


「まず、砂糖はこうして…で、さくらんぼにかけて…っと。」

わたしはリタに教えてもらったとおりにやってみた。

「で、少し乾燥させて、チョコでコーティングして、完成…なんだけど、どうかな〜。」

ちょっと不恰好なそれをマリーナに見せる。

「いいんじゃない?なかなか。手作り、って感じで。これはどれくらい作るの?」

「それなんだけど、さくらんぼがあんまりないんだ…
だから、これはトラップとクレイの分だけにして、後は別のもの、って言うことで…」

「オッケー。じゃ、他の人はトリュフだけにするの?」

「ううん。どうせルーミィも欲しがるから、パウンドケーキかクッキー、作ろうと思ってる。」

「ふーん…それならサクサク作らないと間に合わなくなるね。」

「うん。じゃ、残りのさくらんぼもやっちゃおう。」

わたしとマリーナで手分けして砂糖がけとチョコのコーティングを何とか終わらせた。


それからが大変だったの。
結局ドライフルーツをいれたパウンドケーキとトリュフを作ったんだけど、
思った以上にチェリーボンボンに時間が掛かって、
ルーミィが戻ってくる前にぎりぎり終わった、って感じだった。
(ま、隠した、とも言うけど。)


それでも台所にあま〜い匂いが残ってて、ルーミィをごまかすのが大変だったの。
ちょうど夕ご飯時だったから、なんとかごまかしごまかしルーミィを連れて
わたしとマリーナとキットンとノルと五人で猪鹿亭へ。
ちょうど夕ご飯時だったことも手伝って猪鹿亭は賑わっていて、
ようやく席を見つけて座る事ができた。

「パステルいらっしゃい!今日は何にする?」

「あ、B定食五つお願い。」

「ん。じゃ、ちょっとまっててね。」

そういい残すと厨房に戻っていった。


「で、パステル、どうだったんですか?うまくいったんですか?」

「うっ…まぁ、当日のお楽しみ、ってことで…」


そうなの。キットンとノルは今日わたしとマリーナが何をしていたか知っている。
知らないのは今日此処にいない、トラップとクレイのふたり。

「まぁ、パステルの事ですからねぇ。ぎゃははははは…」

なにが可笑しいんだか。いつものことだからほっといて。

「で、マリーナは当日まで居るんでしょ?」

「うん。せっかくだしね。パステルのところに泊めてもらえる?」

「もちろん!泊まって行って。」

ふふふ。せっかくマリーナが泊まるんだったら、ルーミィには悪いけど、
クレイと一緒に寝てもらって、マリーナにはわたしの部屋に泊まってもらおうかな。
色々話したいこともあるし。…うん、そうしよう。

「なにニマニマしてんだよ。」

聞きなれた声とともに頭がペチッ、と叩かれる。
いたいな〜、ほんと。文句の一つでも言ってやろうと思ったんだけど。

「あら、トラップ。こっちに座りなさいよ。」

ニヤリ、とマリーナがトラップを見上げる。

「げげっ!なんでいるんだ?」

「いいじゃない。パステルに用事があったんだから。」

「…あー、ついてねぇ……。」

「あ、マリーナ来てたんだ。」

トラップから少し遅れてクレイがやってきた。

「うんvパステルに合いに来たの。しばらく泊めてもらうねv」

「そっか。ゆっくりしていきなよ。そうだ。ルーミィ、しばらく俺と一緒に寝ような。
そしたらパステル、マリーナとゆっくりできるだろ?」

さすが、クレイ。わたしが頼もうと思っていたのに。
なんでもお見通し、って感じ。今回は素直に甘えちゃお。
面白くない顔をしているのはトラップ。
ま、今回は色々あるから、気にしない、気にしない。

「ルーミィ、くりぇとねうのかぁ?」

「うん、マリーナが泊まってる間、クレイと一緒に寝てくれる?」

「わかったおう。」

ふう。これでルーミィはOK。
あとは…ちらりとトラップの方を見ると面白くなさそうにビールを飲んでいた。
どうやらあきらめたみたい。後は当日まで何事もありませんように。





それから一週間。


ううっ…とうとうその日が来ちゃった。バレンタインが。

最初はあれだけ楽しかったのに、気が重いよー。
やっぱり渡すのやめようかな…どうしよう。

それは横にいるマリーナも一緒みたいで。

「「ねぇ…」」

ふたり同時にはもる。

「どうしよう…やっぱやめようかな…」

「なに言ってんの。あんなにがんばったんじゃない。」

「そういうマリーナこそ。」

ふぅ、どちらともなくため息がでる。
だってね、さっきチラッとみたら、トラップもクレイも色とりどりのかわいいチョコをたくさん貰ってた。
なんかわたしたちのって…そりゃあ、キチンとラッピングとかはしてあるんだけど。
なんかあれだけたくさんのチョコを見ちゃうと…わたしづらい。
ほかのみんなにはトリュフチョコと切り分けたケーキをわたしたんだけど。
(あ、ルーミィにもね。)

「せっかく作ったのになぁ。」

「やっぱりわたそうよ。せっかく作ったんだし。」

マリーナは行き良く立ち上がるとわたしの腕をとって歩き出した。

「ち、ちょっとマリーナってば…」

くるりと振り向くと。

「やっぱ、後悔したくないじゃない?」

と悪戯っぽく笑う。

そっか。そうだよね。後悔はしたくない。
ありったけの気持ちを伝えよう。

わたしはあいつに。マリーナはクレイに。

「ダメだったらなぐさめてね、パステル。」

「もちろん。マリーナもなぐさめてよ?」

「わかってるって。それじゃ、あたってくだけろ、といきますか。」

わたしたちふたりはお互いの検討を祈る。想いが届くように、と。



トラップはどこだろう。
さっきまで女の子に囲まれていたはずなんだけど。
気がついたら見当たらなくなっていた。

「どこいっちゃったのかな…」

今の時期に木の上で昼寝とは考えにくいし。
一度戻ってみようかな。家に戻るのに、だんだん早足になる。


カチャ…


家に戻ると思ったより静かだった。まるで誰も居ないみたい。
わたしは真っ直ぐトラップの部屋に向かった。


トントン…


ドアのノックしたけど返事がない。

「いないの?トラップ?」

そっとドアを開けると部屋の中にトラップはいなかった。

「どうしていないのぉ…」

だめ。涙が出てきた…
緊張の糸が切れたのか、涙が溢れてきてとまらない。

「トラップ…」

「なんだよ。」

不意に後ろから一番聞きたかった声。

「なに泣いてんだよ…」

「だって…トラップ、いないんだもの…」

子供みたく泣いてるわたしの頭をやさしく撫ぜてくれる。

「ま、座りな。」

ほらよ、と部屋の中に入れてくれて。イスに座らせてくれた。

「で、なんか用があるんじゃないのか?」

そうだった。大切に持っていたチョコを差し出す。

「これ…」

トラップは一瞬驚いた顔をしたけど。

「おれに、か?」

「そうだよ。トラップに。」

「クレイに、じゃなく?」

「どうしてそんなこと言うの?これはトラップのために作ったのに…」


…どうしてそんな意地悪言うの?どうして?一生懸命作ったのに。


「…いらなかった?迷惑、だった?」

「迷惑じゃないさ…」

気がつけばチョコの箱はトラップの手のなかで、
すでにラッピングははずされていて。


「ふーん…器用なもんだな…」

チョコをしげしげと眺めた後、ポイ、と口の中に放り込む。

「おいしい?あんまり甘くないようにしたんだけど。」

何にも言わないから、おそるおそる聞いてみた。

「いいんじゃねぇの?こんなのも。」

「よかった。それ、ぎりぎりの数しか作れなかったから、味見できなかったんだ。」

「味見してみるか?」

「え?いいの?くれるの?」


やった!ほんとは一個くらい食べてみたかったんだよね。


「じゃ、目瞑れよ。」

「どうして〜?」

「いいから。やんねぇぞ。」

しかたないからしぶしぶ目を瞑る。

「ほら…よ」

トラップの声がきこえて、そして。

唇に柔らかい感触。
ふわりと広がる甘いチョコの香りとさくらんぼの甘酸っぱい味。


え?なに?なに?今の感触!
ビックリしてトラップをみたら、そっぽを向いていたけど、横顔は赤くなっていた。
いいのかな?トラップ。わたし、単純だから信じちゃうよ?ねぇ。

「トラップ?」

「なんだよ…。」

「来年もチョコ、あげるね。その次の年もずぅーっと、ね。」

トラップは

「ばぁか。」

って言ってもう一度わたしにキスをしてくれた。



01/2/14
終わった…。一気に6時間。疲れました。
マリーナはどうなったんでしょうね。
トラパス、クレマリ派としてはうまくいって欲しいですが。
機会があったらマリーナ視点で書いてみたいですね。