めりー・くすります! |
毎年のことだけど。この時期男の子たちにはうってつけのバイトがある。 それはね、「サンタクロース」。 赤い服をきて白い髭つけて。 依頼を受けたおうちに訪問して子供たちから何が欲しいのか聞いて御両親に報告するの。 特に私たちの中ではノルがこの時期の稼ぎ頭。 今日もノルを始め男の子たちはせっせとバイトに勤しんでいる。 後は子供の夢を壊さないよう、希望を聞き出せばOK。 ノルとクレイは問題ないけど、トラップ(口が悪い。)とキットン(とっても怪しい。)がねぇ。 ま、仕方ないか。 私はお留守番。この時期はあんまりいいバイトは無い。 あぁ、そうだ。クリスマスはケーキ売りのバイトが入っていたっけ。 このバイト、結構いいんだよね。 目が回るほど忙しいけど最後に必ずケーキ、くれるんだよね。 バイト代ももらえてケーキも貰える。なかなかおいしいバイト。 そうそう、ルーミィとシロちゃんもこの時期限定のバイトがあったっけ。 ルーミィのあの天使のような姿、教会で引っ張りだこなんだよね。 シロちゃんとセットで。ここ最近はあちこちの教会でお年よりに可愛がられているみたい。 いつもニコニコ顔でおやつをもらって帰ってきているから。 なんだか慌しく日は過ぎて気がつけばクリスマス。 今日は私もバイトがある。ケーキの売り子。 きっと忙しいだろうなー、って思っていたんだけど。 バイト先についてびっくり…売り子さんたちみんなサンタの格好。 女の子はなんと!スカートの赤い衣装もちろん帽子もある。 背中に小っちゃな羽がついていてカワイーの!ルーミィに着せたらかわいいだろうな。 でも今日はルーミィじゃなくて私が着なきゃいけない。 みんなに会いませんように。特にトラップ。あいつに見られたら何言われるか。 そんな願いもむなしく。 「パステルじゃありませんか!」 びっくりして振り向くと、いやぁ、最初わかりませんでした、と白い髭を蓄え、 ぼさぼさ頭が帽子からはみ出ているキットンサンタ。 「なかなか似合ってますよ、その衣装。」と言い残してその場を去っていった。 体と同じくらいの大きさの白い袋を背負って。 配達のバイトもやる、なんて話は聞いてないんだけどね? キットンサンタがいなくなったら今度はノルサンタとクレイサンタがやってきて。 二人とも私を見てかわいい、って言ってくれたんだ。 なんか嬉しいよね。こういう言葉って。 でもクレイサンタは私のスカートを見て、ちょっと短くないか、だって。 お父さんみたいなこと言って変なとこ心配するんだから。 そして気がつくとクレイとノルもなにやら白い袋を背負っていた。 「ね、配達のバイトも引き受けたの?」 そう聞いたとたん二人ともぎこちない表情を浮かべ、 まぁ、ね…と言葉を濁すとそそくさといなくなってしまった。 なんなんだろ?不思議だったけど深く考えれるほどの暇は無かった。 急に混んできてケーキが飛ぶように売れていったから。 ケーキも残り僅かになったとき。 日もとっぷりと暮れてしまって人通りも寂しくなってきていて。 当然ケーキも売れなくなってきて寒さが余計身に沁みてくる。 お客も来なくなって寒さに身を縮込ませている私たちを見て店主がバイトの終わりを告げた。 「二日間ご苦労様。売れ残りで悪いけど、みんなそれぞれ好きなケーキ、持って帰って頂戴。 味は保証するから。」 売れ残り、とは言ってもついさっきまで売られていたもの。どれもこれも美味しそう。 私がその中から選んだのは生クリームにイチゴがたっぷりのったケーキ。 真中にちょこんとサンタの砂糖菓子がのっている。これならきっとみんな喜んでくれるに違いない。 「このイチゴのやつ、いいですか?」 店主に確認する。 「ん?いいの選んだね。実はそれ、自信作なのよ。イチゴも甘くて美味しいんだから。」 そう言ってケーキを包んでくれる。そのケーキを受け取って帰ろうとしたとき。 バイト代、いらないの〜?って声に慌てて引き返してバイト代を貰った。 危ない危ない。ケーキに満足して忘れるところだった…店主がいい人だったからいいけど。 来年もここでバイトできたらいいな。そんな事を考えながら家路についた。 すっかりあたりは静まり返っていたけれど、ケーキを持った私はうきうきしながら急いで家に戻る。 …あ。 ほっぺにひんやりとした感触。 空を見上げれば、ふわふわと雪が舞い降りてきている。しばしその光景に目を奪われていた。 「パステル!風邪引くよ。遅いから様子を見に来たんだけど…」 「クレイ…ごめん、あんまりにも雪がきれいで。」 「いや、いいんだ。ルーミィがお待ちかねだよ。パステルというよりケーキだけど。」 まだまだ子供なんだな、ルーミィは。とつぶやいたクレイの横顔はとっても優しかったの。 これが「父性愛」とでも言うのかな?そんな事を考えつつルーミィの待つ家へと急いだ。 「ただいまっ!ケーキ、もらってきたよ!」 バタン!と勢いよく扉を開けると”「「おかえり〜」」 パーン!”とクラッカーのお出迎え。 びっくりしている私をキットンとノルが「中へ早く早く!」と急かす。 何かと急いでリビングに行くと朝は何も無かったのにきれいに飾りつけされていて大きなツリーまである。 「どうしたの、これ?!」 びっくりして見渡すと、 「パステルと同じですよ。バイト先で処分するものをもらったんです。 こっそり持ってくるのは大変でした…」 キットンは頭をぼりぼり掻きながら、今日パステルに会ったとき、 袋に隠していたんですよ、と種あかし。 「オレ、ツリーを運んだ。」とノル。 「その飾り付けの残りをオレとキットンで運んだんだ」とクレイ。 テーブルにはちょっとしたオードブルがあった。リタが持ってきてくれたらしい。 今年は忙しくてケーキだけでクリスマスしようと思っていたからちょっと、いやかなり嬉しかった。 後でリタにお礼を言っておこう。 「ね、折角だからみんな食べよう?日付が変わる前に。」 そうなのだ。今日は25日。あと数時間でクリスマスは終わってしまう。 折角ここまでそれぞれが用意したんだもの。楽しまないと。 …?そういえばこういうお祭り事が大好きなあいつの姿がない。 「クレイ、そういえばトラップは?さっきから姿が見えないんだけど…」 「ん?あぁ、トラップのやつね。もう戻ってくるはず何だけ…」 と最後まで言い終わらないうちにドスンと何かが落ちた音と、 いたたた…と暖炉の方から声が聞こえてきた。この声、もしかして。 びっくりして暖炉の方に駆けていくと暖炉の中にサンタの格好をしたアイツ。 「なにしてんの?!」 それには返事をせずによいしょ、と暖炉から出てきて、ルーミィと私を見て、 「さぁ、さぁ、いい子にはプレゼントだよ。」 そういってポン、小さな包みをそれぞれに手渡す。 「え、え?なに、これって…」 ルーミィはサンタさんから貰ったんら〜、と無邪気に喜んでいる。 困惑している私にクレイがそっと囁く。 「俺たちからのクリスマスプレゼント。みんなでバイト代を出して買ったんだ。」 で、一番身軽なアイツにサンタを頼んだ訳、とウインクした。 「ぱーるぅ、かわいいリボンだぁ!」 と早速包みを開けて見せてくれた。着けてくれとせがまれて髪を結い上げて縛ってやる。 ふと気がつけばすでにアイツはいなくなっていて。 ほどなく、さみぃ〜と上着を前でぎゅ、とあわせて家に戻ってきたアイツ。 さっきまでのサンタの雰囲気はどこへやら、いつものように「おっ、うまそうな物揃ってるじゃん!」とから揚げをぱくりとつまみ食い。 「あっ!まだみんな食べてないんだから!」 まったく油断も隙も無いんだから! 「さぁ、料理が冷め切っちゃわないうちにみんな食べよう!」 この日のために1本だけ用意したシャンパンを開けみんなのグラスに注ぐ。 あ、ルーミィはジュースだけどね。 グラスを持って。乾杯ではなく。 「メリー・クリスマス!!」 カチン、とみんなでグラスをあわせ少し遅いクリスマス・パーティが始まった。 私達はささやかだけど、みんなが揃ってる楽しいクリスマスを過ごした。 031225 間に合いませんでした。 クリスマスに。結構早くから書き始めていたんだけど… うう。情けない… |