07 / 携帯電話
「これ…」

ぽん、と手渡された手のひらサイズのモノ。

「あや…な、なんですか、これ…」

手渡されたそれはパールホワイトで二つ折の携帯電話。
そういえば最近は周りの友達も持っていたっけ。
けれど自分には待ったく関係のないものだと思っていた。

「…まさか携帯を知らない…とか…?」

すごくあきれたような、けれどらしいな、と言っている様な複雑な表情。

「!いえ、し、知っています!けっ、けれどどうして私に…?」

あわてて反論する。
携帯くらい知っているけど、自分が持つことは無いと思っていたから。

「ん…おまえ、バイトの終わる時間遅いし、
夜道を一人で帰ろうとするし…だから、さ…。」

迎えが居ないときはそれで連絡くれよ、と言って逸らした横顔は真っ赤。

「うれしいですけれど、私、お金払えません…」

それが今まで携帯をもたなかった理由。
学費や生活費でバイト代は飛んでしまうし、そんな余裕はなかったから。

「…それ、俺の名義になってるから。
俺や紫呉や由希のヤローなら通話料はかからない。
それに俺たちに聞かれたくないような話もあるだろ?
だからみんなで相談して決めたんだ。
透に携帯をプレゼントしよう、ってさ。」

すごくうれしい。みんなの気持ちが。けど、でも、でも。

「受け取れません…これ…」

そういって両手で差し出した。

「…そういうと思った。でも俺は透に持っていて欲しい。
お前に料金を気にするなという方が無理だろうし、
先にタネを明かすと誰も損はしないんだ。実はな…」

そういって細かい話を始めた。
携帯の仕組みはよく解らなかったけど、誰も損はしていないことだけは解った。

「まぁ、何でか紫呉が俺の名義で契約してきたんだよな。
主回線が紫呉だから文句も言えないんだけどな。」

もう一度しっかり携帯を握らされて。
とても真剣なまなざしで。

「俺は透が持っていてくれたら嬉しいし、安心だ。」

その表情はとても切なくて、胸が締め付けられた。

「…解りました。でも料金が超えていたら教えてくださいね?
それくらいはきちんと払いたいです…」

そうしてとうとう携帯を持つことになった。





あれから一ヶ月。

透サンの携帯は、というと。
もっぱら草摩家の面々が夕食のリクエストに使うか、
透の友人であるありさと咲から電話が入るくらい。
無料通話の域を出ることもなくささやかな携帯電話生活。

そんな透の携帯だけど、
眠りにつく前のほんのひと時、
大切な人と「おやすみなさい。」と言葉を交わしているのは秘密なのです。



050626
久々にフルバです。名前は出てきませんが携帯の持ち主は夾くんです。
何故に夾くんかと言えば単純に紫呉さんが面白がったから。
携帯の家族関係はあんまり気にしないでねv