幻 桜 2
あぁ、遅くなっちゃったね。

早く家に帰ろう。

こんな夜は早くベットに潜り込んで眠るに限る。ウン。
















「いやぁ、イルカ先生すみませんねぇ。」

カカシは頭を掻きながらイルカに声をかける。

「いえいえ、折角ですから、一杯どうです?奢りますよ。」

この間の約束もありますしね、と人懐こくイルカは笑った。

「なんか悪いですねぇ。」

「そんなことありませんよ。折角ですから、一楽にでも…。」

一楽はラーメンだけじゃなく居酒屋としてもなかなかの名店だったりする。


二人は一楽の暖簾をくぐり、店内のこあがりに陣取る。

「こんばんわ、おやじさん。とりあえずお銚子2本。」

「はいよ!」

店に店主の元気な声が響く。


まもなくお銚子が目の前に二つ並べられる。

「さ、さ。カカシ先生、一杯どうぞ。」

イルカはカカシに酒をすすめる。

「いやぁ、すみませんねぇ…じゃあ…」

そう言ってカカシは猪口を受け取る。

そこになみなみとイルカによって酒が注がれる。

「イルカ先生もどうぞ。」

カカシもイルカの猪口に酒を注ぐ。


「まぁ、飲みましょう。本当は桜を眺めながらの方がいいのでしょうけど。」

「いやいや、木の葉の夜桜はねぇ…」

「…あぁ、そうですね…木の葉の夜桜はそうでしたね…」

男達は乾杯、と猪口を軽く合わせ口を付けた。


「へぇ…ここの酒は美味しいですネェ…。」

「でしょう?ここはラーメンもうまいんですけど、酒もなかなかいけるんですよ。」

イルカはニコニコしながら他にも色々たのんでいる。

「あ…そんなにたのんで大丈夫ですか?」

カカシは慌てていった。

「カカシ先生も召し上がるでしょう?ここはつまみもうまいですよ。」

「ええ、まぁ…」




二人は酒を酌み交わしつつ、会話も弾んでくる。

「で、どうですか?ナルトのやつ。」

鼻の頭をポリポリ掻きながらイルカはカカシに聞いてきた。

「ナルトですか?…そうですねぇ。今、一番成長してますよ。」

フッ、とカカシの表情が緩む。

そんなカカシを見てイルカの視線が止まる。

「?どうかしましたか、イルカ先生。」

一瞬動きが止まったイルカに声をかけた。

「あ、いいえ、ちょっと。」

イルカは慌てて首を振る。

「気になるじゃないですか。仰ってくださいよ。」

カカシに促されてイルカは少し気まずそうに、

「いえ、怒らないでくださいよ?」

「…何かまずい事でも?」

「あー、そうではなくて…」

「じゃあ、仰ってくださいよ。」

観念したようにふぅ、と軽く息をはいて、

「…カカシ先生の素顔をこんなにまじかで見たのは初めてだなぁ、と。」

「…そうでしたっけ?」

なぁんだ、と小さく呟いて猪口の中の酒をクイッ、と飲み干した。

「いつもの飲み会は他の上忍の方もいらっしゃるじゃないですか。」

「あぁ、いつもはアスマや紅もいますからネェ。」

他にもうるさい連中がいるけど、と付け足した。

「で、カカシ先生と二人で飲んだのは今回が初めてだったと改めて気づいたんですよ。」

「そういえばそうですねぇ…」

「改めてこうして見ると、面布で顔を隠しているのがおしいですね。きっともてますよ。」

「やめてくださいよ…お世辞言ってもなにも出ませんよ…。」

「いやいや、お世辞じゃないですよ。」

ま、どうぞ、とカカシに酒を勧める。

「誉め言葉、と受け取っておきますよ。」

「さぁ、折角ですから、飲んでくださいよ、カカシ先生。」

イルカに勧められるまま、杯を重ねていった。







「すいませんねぇ……うっ;」

「意外と弱いんですネェ。」

「……カカシ先生が強いんですよ。」

カカシの肩を借りた状態でイルカは恨めしそうにぼやいている。

あの後、カカシは一升以上飲んだはずだが、ケロリとしている。

逆にイルカは五合くらい飲んだところでこのありさまだったのだ。

中忍と上忍の違いだろうか?いや、もともとの素質だろう。

「あぁ、ここでいいですよ…家はすぐ其処ですから…。」

イルカはそう言っているが、どう見ても一人で歩けるような状態ではない。

「まぁ、遠慮なさらずに。玄関前まで行きますよ。」

「すいません……;」

すっかり小さくなってしまっているイルカを家に送り届ける。





「ここまで来れば大丈夫ですね?」

玄関先で確認する。

「カカシ先生…」

「はい?」

「次こそ奢らせてもらいますよ…其のときは酒抜きで…うっ!」

玄関先でしゃがみこんでしまう。

「イルカ先生…本当に大丈夫ですか?」

背中をさすってやる。

「だ、大丈夫です…すぐに寝ますよ…」

ふらりとイルカは立ち上がるとよろよろと扉をあけ、家の中に入っていった。



「…ホント、イルカ先生酒に弱いネェ。大丈夫かね。」

くっくっくっ、と含み笑いをしながらカカシは家路についた。




早く帰ろう。

こんな夜は。

夜の闇に飲み込まれる前に。






2001.04.29

幻桜<2>終了。
イルカ先生、奢るとか言っといて、へろへろになってしまい、
結局カカシ先生が奢る事に。(飲みすぎ注意。)

そんなもんです、次は美味しいラーメンでもイルカ先生に奢ってもらってください、カカシ先生。

さてさて。
次は幻桜<3>でお会いしましょう。