幻 桜 3
闇の中に浮かぶ幻桜。

その妖しくも儚い夢に絡め取られた娘。

桜の木の根元で昏々と眠りつづける…


















…ねぇ。アナタの想い人は誰?


…この黒髪の少年?


…それとも……


…それともなによ!何なの、此処は!


……アナタはもう逃げられないわよ?


…うるさいわね!私は帰るのよ!


…フフフ…そう、アナタの本当の想い人は…?


…うるさいのよ!さっきから!


…無駄よ…。アナタはもう帰れないのだから…








遅くなっちゃったね。

こんなときは早く家に帰るに限るよ。

特に桜の咲いているこの時期はね…


イルカを送り届けた後、

足早に家路につく。

「う〜っ、こんな夜は早く寝まショ。」

音もなくカカシは夜の闇の中を進む。


「?」

ふと闇の中によく知っている気配を感じて足を止めた。

「サクラ?!」

きょろきょろとあたりを見回す。

「どこだ?」

…こんな夜更けになぜサクラの気配が?

注意深く闇の中を探る。



やがて目に飛び込んできたうす桃色。

ぐったりと木の根元に横たわっていた。


「サクラ!!おい?!」

慌てて駆け寄りサクラを抱き起こす。

呼吸も脈をしっかりはしていたが、

何の反応も返ってはこない。


(何があった?ここは木の葉の里の中だぞ…)


そのときひらり、ひらりと花びらが目の前に落ちてきた。

「まさか…」

サクラがいた木を見上げると、それは見事に咲き誇っている桜だった。

「よりによって桜か。」

ふぅ、と深いため息をつく。


「なぜため息をつくの?」

不意に掛けられた言葉に驚く。

上忍である自分に気づかれず忍び寄るとは。

声のするほうを見ると其処には漆黒の闇の中に女が立っていた。

その女はサクラよりももっと濃い桃色の髪を持ち、

その瞳は闇の中で黒曜石のように濡れ光っていた。

「何者だ…?」

サクラを庇いながら注意深く様子を見る。

「フフフ…別に何者でもいいじゃない…」

「答えろ。」

艶やかに笑う女を睨みつける。

「おお、怖い。」

野暮ねぇ、とまたクスクスと笑っている。

「里の者じゃないな?」

「フフフ。今も昔も此処に住んででよ?」

女はなにがおかしいのか、相変わらずクスクスと笑っている。

「サクラに何をした?」

「なにも?」

別に何もしてないわよ?と目を細めて笑っている。

「なぜサクラは目覚めない?」

じろりと女を睨みつける。

「フフッ。なぜ、かしらねぇ?」

「ふざけるな…」

カカシはクナイを握り締める。

「…無駄よ?それに私を殺してもその子を目覚めさせる事はできないわよ。」

眠りについてしまったらね…と女。

「なっ!」

くそっ…とカカシは小さく呟く。

「そうねぇ…でも私、その子のこと、気にいったのよねぇ…」

それにその子はここで「花」になるのよ…と女はクスクス笑う。

「どうすればいい?どうすれば…」

そんなカカシに女は音もなく近づき面布をはぐ。

「あら…意外とイイ男じゃないの…」

なんならあなたが贄になる?と妖しく笑った。

「贄…?」

「そうよ。次に美しく咲くための贄。」

「次に美しく咲くため…?」

「想いが私の糧になるのよ。そして美しく花を咲かせるの。」

幸福な想いは色鮮やかに、苦しい想いは花に深みを与えるの。
どんなに苦しくてもやがてそれは美しく花開くの。
無駄な想いなんてなに一つないのよ。

そう話すと何故か女は寂しそうに微笑んだ。

どうする?と女はカカシを見つめる。

カカシはややしばらく考え込むとようやく口を開いた。

「俺が変わりになればサクラを戻してくれるのか?」

「あなたが変わりになるならね…あなたの想いもとても美しい花を咲かせられるわ…。」

「……。」

カカシは無言で女を見る。

「報われぬと解っていてもなお、止められぬその想い。本物ね…。」

女の黒曜石のように濡れ光っている瞳に妖しく微かな光が宿る。

「さぁ…こっちにいらっしゃい…。」

いつの間に移ったのか木の影からカカシを呼んでいる。

カカシは未だ眠りつづけるサクラの瞼にそっと口付け、

「ごめんね、サクラ…。」

そう囁き、優しく木の根元に横たえると女の元へと歩き出した。







2001.05.13

幻桜<3>終了。
しつこくまだ続きます。
カカシ先生、サクラの元に登場。
が、しか〜し!って感じですね…^_^;
そして女!何者じゃい!って感じ?
それは秘密です。機会があれば…ってことで。

次は幻桜<4>でお会いしましょう。