恋 心 |
「あ…サクラ、ちょうどいいところに来たね。」 ちょっとこっちにおいで、とカカシが呼んでいる。 サクラには用事がなかったけど、ニコニコと自分を呼んでいるカカシを無視するわけにもいかず、呼ばれるままにカカシの側へと走りよる。 「なぁに?先生。」 「はいvこれ。」 そういって目の前に出されたのは。 かすみ草と紅い薔薇の花束と。綺麗にラッピングされた小箱。 「え…?!な、なに、これ!」 「なにって、今日はホワイトデーでしょ?だから。」 薔薇とか嫌いだったかい?とカカシが尋ねる。 「ううん!そんなことないよ。でも…」 こんな事してもらう理由がない。バレンタインにチョコあげた訳じゃないし。 「でも、なに?」 「バレンタインに先生にチョコあげてないよ?」 ああ、なんだそのことか、と納得顔のカカシ。 「そのことね。俺、ちゃんとサクラからチョコ貰ってるよv」 「えっ?!うそ!」 「うそじゃないよ。まぁ、本当は俺の口に回ってこなかったはずだったけど。」 そう言われて一ヶ月前のことを思い出す。 恋 心<こいごころ> 「ね、そっちにナルトとサスケくんがいるよ!早く渡してこようよ!」 「う、うん…」 「ほら、ヒナちゃんもさ、早く!」 「あ、まってよ!サクラちゃん!いのちゃん!」 ヒナタをおいてさっさとサクラといのはサスケの元に走っていく。ヒナタもあわてて二人の後ろを追いかける。 「「サスケくん、コレうけとって!」」 いのとサクラが同時にサスケにチョコの包みを差し出した。 「…興味ない…。」 素気ない言葉を残しサスケはその場から居なくなってしまった。 「…あ〜!今年もだめだったぁ〜」 「あんたの所為じゃないの?!」 「違うよ!それこそあんたの…」 「二人とも…やめてよ…」 「「!!!!」」 ヒナタの声に二人とも一斉に振り向き、 「「ヒナタこそ渡してきた?!」」 「うっ…ま、まだ…」 「渡してこなきゃ、だめだよ!」 「そうそう。一緒に行くから渡してこよう!」 ヒナタは内心少し迷惑に思っていたが、この二人に押し切られ、ナルトの前に引きずられていくハメになった。 「ナルト〜!」 「あっ。サクラちゃんvいのとヒナタも。」 ナルトの前に来て三人はなにやらひそひそ話しをしている。 「ほら!」 「恥ずかしいよぉ…」 「女は度胸よ!」 そんな会話と共にヒナタがナルトの目の前に押し出される。 「ん?どしたのヒナタってばよ。」 「ナ、ナルトくん…こ、これ…。」 精一杯両腕を伸ばしてナルトの前に可愛い包みを差し出す。 「これ、俺にくれるの?」 思いがけないモノにナルトの顔が緩んでいる。 「受け取って。ナルトくん…」 「ありがとってばな、ヒナタちゃんv」 ニコニコしながらヒナタから包みを受け取った。 「受け取ったわね?!」 と、いの。 「な、なんだってばよ!」 「フフフ。それはバレンタインチョコ。ちゃんとホワイトデイにお返ししなさいよ!」 そう叫ぶとやって来たときと同じようにぎゃあぎゃあ騒ぎながらいってしまった。 「…なんだったんだってばよ……。」 後にはポカンとたたずむナルトの姿があった。 そんなこんなでいのとヒナタと分かれてから気が付けばまだしっかりと持っている、サスケにあげるはずだったチョコの箱。 「どうしようかな…捨てちゃおうかな…」 でも勿体無いし…などと考えていたとき。 「あれー。サクラじゃないか。そんなとこで百面相してなにしてるの。」 「カカシ先生…。」 声の主は言わずとしれたはたけカカシ、その人であった。 「一人でどうしたの?」 にっこり微笑んで優しく聞いてきた。 「う…ん…サスケくんにチョコあげようと思ったんだけど。断られちゃった…」 「そっか。ダメだったのか。」 「!ダメじゃないもん!今年はムリでも来年があるもん!」 ジロリとカカシを睨みつける。 「ハハハハハ…そうだな。来年があるか。じゃあ、その手にもってる今年のチョコはどうするの?」 「えっ…うーん…そうだ!先生貰ってよ!捨てるのもったいないし。バレンタインのチョコとしてじゃないけど。」 そういって差し出してきた。 「俺が貰ってもいいのかい?」 「うん。一応手作りだし、やっぱり食べ物を粗末にしちゃ、ね。」 「じゃあ、ありがたく頂戴しておくよ。」 「よかった!それじゃ、先生、また明日ね!」 サクラは手を振りながらさっさと帰ってしまった。 「バレンタインのチョコ、ねぇ。サクラには悪いけど俺にはラッキーだったかもね。」 そう呟きながら「勿体無いから」と渡されたチョコを口に運ぶ。 「…こりゃー、サスケのヤツ。勿体無いことしたなぁ…。」 カカシはそう呟いていたが、満面の笑みを浮かべしてやったり、という顔をしていた。 ようやく思い出したかサクラは口を開く。 「たしかにチョコあげたけど、バレンタインじゃなかったのよ?アレ。」 「うん?解ってるよ。でもいいの。俺がサクラにあげたいんだから。」 それともなに、こんなものはいらない?と意地悪く笑う。 「そ、そんなことないよ!」 「じゃあ、受け取ってよ。折角用意したのに無駄になっちゃうから。」 サクラが両手じゃないと抱えられないくらいの花束が渡される。 そういえば。同じ年頃の男の子からのお返しはクッキーとかキャンディとかだったっけ。 …花束なんて何か大人になったみたいな気がした。 「ね、こっちの包みは何?」 「んー、秘密。あとで家に帰ってから開けてごらん。変なものじゃないから。」 にっこり笑うとサクラの頭に手をやり、くしゃっ、と撫ぜた。 「…どうして花束なの?」 自分の頭を撫ぜているカカシを上目使いに見ながら聞いてみる。 「…いやだったかい?」 カカシの片方だけ見える瞳に一瞬不安の色がよぎる。 「ううん。そうじゃなくて…」 「女の人は花束とか好きだろ?だから用意したんだけど。クッキーとかの方がよかったかな?」 「違うの!すっごく嬉しかったの!…一人前の女の人として見てもらえたみたいで…」 顔を紅くしながらカカシに向かって一生懸命話す。 「そっか…気に入ってもらえてよかったよ。」 其のときの先生の顔は今まで見たことがないくらい極上の笑みを浮かべていた。 そんなカカシの顔を見てしまったサクラは何故か心臓が跳ね上がるほど緊張していた。 「も、もう帰るね、先生、これ本当にありがとう!」 顔を紅くしたまま、そそくさとその場を離れていった。 「…うーん。手応えアリ、かなぁ。」 花言葉に気が付いてくれるかねー。カカシはそんなことを呟きながら家路についた。 …かすみ草は「清い心」、紅いバラは「熱愛」今の自分の本心を表したつもりなのだけど。 サクラとカカシがそんな会話を交わしていたとき。 「あ、ヒナタちゃん!ちょっとイイ?」 「なに?ナルトくん。」 「あのさ…これ。」 そういって差し出されたのはクッキーのはいった小さな包みとかすみ草の花束。 「いいの…?これ貰っても…。」 「いいってばよ。あんまり高い花、買えなかったけど、ヒナタちゃんのイメージってこんな感じだったんだよね。」 へへっ、と照れくさそうにナルトは笑っている。 「嬉しい…ありがとう、ナルトくん…。」 ヒナタは幸せそうに笑っていた。 「…青春だねぇ…」 たまたまナルト達を見つけたテンテンがポツリと呟く。 「うるさい、テンテン。」 じろりと睨むのはヒナタの兄役、ネジ。 「ボクもサクラさんに…」 ロック・リーはすでに自分の世界。 「泣かせたら只じゃすまさんぞ…ナルトのヤツ…」 「いいかげん妹離れしなよ…ネジ。」 「ほっといてくれ…」 こうして心配性の兄の気苦労は続くのである。 …ナルトは背中になぜか冷たい視線が注がれているような感じがして。ゾクリと冷や汗が流れた。 (風邪でも引いたかなぁ〜。) 真実を知らないナルトはのん気なモノだった。 「ただいま…」 「あら。早かったわね…その花束どうしたの?」 「これ?バレンタインのお返し。」 「あらあら…ずいぶん大人っぽいお返しね。」 「いいじゃない、別に。」 「フフ…別に悪いなんていってないわよ。後で花瓶取りにいらっしゃい。準備しといてあげるから。」 「ありがとう、お母さん。」 それ以上詮索されてもイヤなので足早にさっさと自分の部屋に入る。 「そういえばこっちの箱。なにが入っているのかな…」 小さいけれどキチンとラッピングされている箱を丁寧に開けていく。 中から出てきたのは。自分の瞳と同じ色の石をあしらったネックレスとピアスだった。 「先生ってば…なに考えてんだろう…」 ピアスの穴だってあけてないのに。 サクラにカカシの真意がまだわかるわけもなく。こんな高価であろうモノをくれたカカシに、悪いから来年のバレンタインはチョコをちゃんと用意しておこう、と思ったのと、明日もう一度お礼を言わなきゃね、と素直に思ったサクラであった。 そんなカカシの真意を知るのはまだまだ先の事。 2001.3.15 2001.3.24 ちょっぴり改定。 ホワイトデー用カカサク、ナルヒナ風味。 ちょっと大人なお返しにどきどきするサクラちゃんを書いてみました。 でも個人的には妹離れしてないネジがポイントかも。 ナルヒナにやきもきするネジ話も面白いかもね。 |