夜 桜 / カカシver.
「あ、カカシ先生!」

「なんですか、イルカ先生。」

「いや、合同会議も終わった事ですし、一杯いかがです?ナルト達のことも聞きたいので…」

「あー、今日はちょっと。これから鍛錬場に篭ろうかと。」

「鍛錬場、ですか?上忍のあなたが。」

「ええ…ま、腕が鈍らないようにしておかないと。」

(前回の任務であいつら、危険な目に合わせちゃったしな。死ななかったから良かったけどさ。)

ザブザと白の壮絶な最後が脳裏に浮かぶ。

(あいつら今は一緒に居るんだろうか…。)

感慨にふけっているカカシ。

「残念です…。じゃ、次の機会にどうです?」

イルカは諦めずに尋ねてきた。

「え?あぁ、そうですね。次の定例会議の後はどうですか?」

適当に言ってしまってから後悔した。

「ちょうど一週間後ですね。そうしましょう。」

じゃあ、と軽く手を上げて挨拶するとイルカは職員室の方に戻っていった。

(あー、面倒な約束しちゃったな。)

そんなことを考えているカカシであった。


「さて…。」

カカシはくるりと踵を返すと鍛錬場へと歩を進める。

「今日はどうするかな〜」

あくまでおきらくなカカシだった。







「197、198、199、200っ…と。指立て伏せ終了。さて次は…」

目の前には通常よりはるかに高い鉄棒。うまく壁を利用して鉄棒に足を引っ掛けて腹筋をはじめた。


「さて。身体も温まったし。」

やおらクナイをとりだして的を狙う。
クナイを両手に持ち、一気に放つ。
カカカカッ…と小気味のよい音が響く。

「うーん。まだまだだな…。うん。」

とは言ってもクナイはすべて的の中央に刺さっている。
何が「まだまだ」なのかは本人にしかわからない。
納得のいかない感じでしばしクナイによる的当てが続く。

「…この気配…」

ふと動きを止め、気配を探る。

「サクラ?」

チラリと窓に視線を投げれば、闇の中に桜色の髪が揺れていた。

「まだまだ甘いねぇ…。」

ふう、と軽くため息をふいて、

「ちょっとからかってみまショ。」

とりあえずサクラがこっちに近づいているのに知らないフリで練習を再開する。
ややしばらくして窓のすぐ下にサクラの気配があった。

(うーん…気配を消すのがあまいねぇ。)

なにやら熱い視線が注がれているのに気づく。

(な、なんだぁ?)

サクラからそんな熱視線を浴びる理由がわからない。
ふと自分の顔に手をやると額当ても面布もつけていない。

(…もしかして。そういや暑くてさっき外したんだっけか。そのせいか。)

今までにも何度となく面布を外そうと躍起になっていたっけ。
ま、サスケやナルト、サクラごときに面布をとられるなどという失態はありえない。

(そんなに気になるのかね…)

ふぅ、と軽くため息をこぼした。

「さて。どう反応するかな?」

クスリ、と笑みをこぼした瞬間、その顔つきとはうらはらに殺気をサクラに向かって放った。
窓の向こうでサクラの小さな身体がびくっ、とふるえて固まるのが解る。

「おっ。感心、感心。ちゃんと気配殺せるじゃない。」

にやりとほくそえむ。
額当てと面布を着けるとそっと鍛錬場を抜け出す。

(おっ。いたいた。あーあ、あんなに緊張しちゃって。)

カカシは音も無くサクラに忍び寄って行く。
すこし離れて様子をみていたが、そのうちにサクラは恐る恐る鍛錬場を再び覗いて、

「ついてな〜い!!」

と叫んだ。

(やれやれ。カワイイねぇ。まったく。)

「何がついてないの?」

背後からその小さな身体をひょいと抱き上げた。

「か、カカシ先生?!な、な、なにするんですか!離してください!」

「んー、イヤ。怒った顔もカワイイネーv」

本当にカワイイ。本気で怒っているのだろうが、その仕草すらかわいらしく見える。

「話をすりかえない!」

「手厳しいね、サクラちゃんvでもサクラちゃんこそこんな時間に覗きだなんて。
先生どきどきしちゃうよ?」

「の、覗き?!違いますっ!!!」

「んー、じゃ何してたのかな〜。」

自分の腕の中でじたばたともがいてるサクラの耳元で囁くように聞く。

「寝付けなくて散歩してたんですっ!もうっ!離してくださいってば!」

「散歩?サクラちゃんの家からここまで結構距離あるじゃない?」

「〜〜〜〜アカデミーに明かりが点いてるのが見えたから…もしかして泥棒かな、って思ったから…」

自分の腕の中にいる小さな姫君はどうやら気分を害しているらしい。

「ふーん。じゃ、鍛錬場を覗いていたのは?」

と聞いたとき、自分の顔を見上げているサクラの視線を感じた。
そして顔を見て明らかに落胆しているような感じだった。

辛うじてサクラの口から

「秘密です。」

と返ってきた。

「ひみつ、ねぇ。」

思わずくっくっくっ、と笑ってしまった。
何をしようとしていたかはおおよその検討がついていたけど。

「いいかげん離してください!」

思い切り両手両足をバタバタさて抵抗してきた。

「おいおい、危ないよ。」

別に痛くも痒くもないけど、これ以上抱いているとしばらく口を聞いてもらえなくなりそうだったので、
まだ笑いながらようやくカカシはサクラを地面に降ろした。

「帰りますっ!」

…おっと。このまま帰してしまうのはもったいないな。

「まちなさいって。送ってあげるから。」

あわててサクラに声をかける。
機嫌が悪くなってぷりぷりしているサクラの頭を優しくなでてやる。

「いいですっ」

「ま、そんなこと言わないの。ジュース奢ってあげるから。」

カカシはサクラが怒っているのも気にせず、小さな手を握ると、にっこりと微笑んで、

「帰ろっか。」

そう言ってサクラの様子を何気に伺う。
ややしばらくして小さな声で

「…うん。」

と返事が返ってきた。

「うんうんv素直が一番。」

(くっ…もう、抱きしめちゃいたいね。)

自然と緩む口元に面布で口元が隠れていて良かったとつくづく感じながら歩き出した。



「ねぇ、先生。」

不意にサクラから言葉が飛び出す。

「ん?どうしたの。」

「いつもこんな時間まで鍛錬してるの?」

「あー、今日は特別。普段はもう少し早く切り上げてるよ。」

「先生ってこういうことしないのかと思っていた。」

(ガクッ…おれってそんなに怠け者に見えるのかなぁ。)

「おいおい…そりゃないでショ。サクラ達の先生でもあるけど、現役の上忍でもあるんだから。」

「もしかしてそのせいで遅刻を?」

「……ちょっと違うな。」

「違うって?」

「う〜ん…ま、色々とね。」

(イチャパラ読んでて、とは言えないよなぁ…やっぱり。)

そんなこと正直にいったら「最っ低!このエロ教師ぃ〜〜〜〜」って叫ばれるのがオチだ。
それはちょっと避けたい。そのとき自販機があるのに気がついた。
カカシはふと足を止めると目の前の自販機に小銭をいれスイッチを押した。
ガラン…という音と共に取り出し口に缶が落ちてくる。

「ほら。先生の奢り。」

プシュ、と口を開けてからサクラにアイスココアの缶を手渡してやる。

「あ、ありがとう…」

ニッコリ笑って受け取るその仕草が可愛らしい。

「オレンジの方が良かったかな?」

「ううん。ココアも好きだし。」

「そっか。」

「先生はいらないの?」

「別にいいよ。俺はね。」

(サクラがよければ、ね。)

「ふーん。」

「ねぇ、先生はココア嫌い?」

「嫌いじゃないよ。どうして?」

「ね、半分コしよ?」

コクコクッ、と半分飲んで缶を差し出す。

(はぁ?ちょっとまてよ、おいおい…)

「サクラが全部飲んじゃっていいよ?ね?」

極めて冷静に言ったのだけど。

「ダメ!だって悪いもん!それに疲れているときは甘い物っていいんだよ!」

もう一度ココアを差し出した。

(解ってんのかな〜間接キス、だよ?サクラチャン。)

たぶん天然であろうその言葉に思わず苦笑してしまう。

(あー、でも飲まないときっと機嫌悪くなるんだろうな。)

大の大人がこんな少女の振り回される。なんて滑稽なことか。
そう思って諦めてカカシはサクラの手から缶を受け取ると、
面布をクイッとさげて残っていたココアを飲み干した。

「ごちそうさま。」

空き缶をごみ箱に投げ入れる。

「せん…せい?」

「ん?なに?」

あえて面布を戻さずにクルリと振り向いく。

「面布…」

(おお、驚いてる、驚いてるv)

サクラの悪くない反応にニヤリとほくそえむ。

「ああ、そりゃしたまま飲めないでしょーが。」

もっともな返事をする。

「で、感想は?」

「え?感想?」

「見たかったんデショ?面布を外したトコ。」

(ちゃんと気づいてますよ、サクラちゃん。)

「…してない方がいいよ。」

(してない方がイイ、ときましたか。まいったね、こりゃ。)

はにかむ姿も可愛らしい。

(んー、ここまで来ると病気に近いね。恋の病、ってね。)

あくまで平静を保ちつつ、

「そう?んー、でもこの代償は高くつくかもね。」

とさらりと言う。

「代償ぉ?!」

「そ。いつもならここまでみて無事なヤツはいない。」

(普段なら、ね。)

「……どうする気?」

サクラが身構える。けどそんなのは問題ない。

「ん?こうするだけ。」

と、サクラに口付ける。

(あっ…やっぱ柔らかいなぁ…。)

そんなことをのん気に考えつつすぐに唇を離す。
眼を白黒させながら慌てているサクラに一言。

「代償は払ってもらわないと、ね。」

と何事も無かったかのようにいった。

「フ、ファーストキスだったのに〜!初めてのキスはサスケくんと、って決めてたのにぃ!」

ギロリとカカシを睨みつける。

「だから高くつくかもね、っていったでしょ。」

ニコリと満面の笑みを浮かべると、

「サクラの家はすぐそこでしょ?真っ直ぐ帰りなさい?」

と一言、呆然としているサクラを残しその場から消えた。


ポツンと一人取り残されるサクラ。

「……っせんせいのばかぁ!っこのエロ教師ぃ〜〜〜〜!!!」

暗闇の中にサクラの怒鳴り声が響き渡っていた。



「おー、叫んでる、叫んでるv今日はこのくらいで勘弁してやるよ。」

サクラの視界に入らないところでちゃんと家に戻るまで見守りつつ、

(お楽しみはサクラがもう少し大きくなってから、ね。それまでにおれが好きだと言わせてみせるさ。)

などと物騒な事を考えているとは誰も知らない。






2001.03.04

夜桜カカシ編です。
変態ちっくですねぇ…カカティー。
この続きを書くとしたら、プチ鬼畜になりそうで怖い。(爆)
お楽しみはサクラがもう少し大きくなってから、って…ねぇ。
(これ書いてるのわたしだけどさ。)
とりあえず、終了、ってことで。