夜 桜 / サクラver. |
「あっつーい!!」 「明日はまた任務があるのに…」 ごろん、と寝返りをうつ。 「……ねむれなーい!!!」 がばっ、と活きよいよく起き上がると、 「よし!散歩いこ。」 ささっ、と身支度を整えて両親を起こさないように自室の窓からこっそりと抜け出した。 部屋の中は暑かったのだが表に出てしまえば夜風が汗ばんだ肌に気持ちよかった。 夜桜 「ふふっ…きもちいーv」 窓から抜け出したサクラは両手を広げて夜風を受ける。 「どこにいこっかな…」 外に出たまではよかったがふと考え込んでしまった。 「…そうだ。アカデミーの方でも行ってみるかな。」 そうつぶやくとテクテクと歩き出した。 幼い頃から通いなれたアカデミーまでの道のり。 アカデミーを無事卒業して下忍となった今となっては懐かしい道のりでもあった。 いつもの道からほんの数メートル中に入れば。 目に付くのは古い古い大木。幹には小さな何かが刺さったような痕が残っている。 「あ…まだこの木、残ってるんだ…」 サクラがつぶやく。懐かしそうに幹を手で撫ぜる。 「この木でよく手裏剣の練習したっけ…」 辛い事があったとき、悲しかったとき、悔しかったとき。 その気持ちをバネに練習に打ち込んだ。 今となってはそれも懐かしい過去のこと。 さらにテクテクと歩を進める。 「あ…見えてきた…」 暗がりの中にうっすらと建物の影が浮かぶ。 「…?」 サクラの顔が一瞬こわばる。 「明かりが点いてる…」 (変…今は真夜中。アカデミーには誰も居ないハズ。確かめなきゃ…) サクラは慎重に建物に近づき、明かりの灯っている部屋の真下まで移動する。 中からはカカカッ…とクナイを打ち込む音が響いてくる。 (この部屋って…鍛錬室だ。) そーっと部屋の中を覗くと見覚えのある後ろ姿に銀の髪。 (えっ?!カ、カカシ先生?) 忍服の上着だけ脱いでいて、黒いTシャツというカッコだったが、 いつから居たのか、銀の髪からぽたり、ぽたり、と汗がすべりおちる。 (すごい汗…何時からここに…?) ふとサクラの中にそんな疑問が浮かぶ。 今日だって任務が終わって里に戻ってきた時にはすでに日が暮れていた。 上司であるカカシはその後、報告書の提出などがあったはずだ。 もしかしてそれからずっと? でもどうして? そんなことを考えながら黙々と練習に打ち込むカカシを見つめた。 (あ!よく見たら面布と額当て、外してる!うっそー。こっち向かないかな。) いつもは面布で口元を隠していて素顔を見るチャンスもないし、 ナルトと何度か面布を引っぺがそうと色々やったけど、上忍であるカカシに敵うわけも無く。 いつも適当にあしらわれていた。 それが今は面布も写輪眼を隠している額当てもしていない。 (こんなチャンス、きっともう無いよね。素顔、見てみたいな…) サクラはただただ一瞬足りとも見逃すまい、とカカシを目で追う。 その時。 ざわっ、とカカシが殺気だつ。 (えっ!) まずい、とあわてて完全に気配を殺して様子をうかがう。 ぴったりと壁に張り付き早鐘のように打つ心臓を落ち着けようと深呼吸する。 怖いくらいの静寂。 自分の心臓の音だけがドクン、ドクン、と聞こえてくる。 どの位経ったのか解らない。 ふと気づけば殺気は消えていた。 (なんだったのかな?) 何にも無かったからま、いいか、と気を取り直してそろり、と窓から鍛錬場を覗いた。 (…?) そこには先ほどまで居たはずのカカシの姿が見えなかった。 (うそっ!もしかして帰っちゃったの?) もぬけの殻になった鍛錬場の中をみてがっくりと肩を落とすサクラ。 「ついてな〜い!!」 「何がついてないの?」 聞きなれた声と共に後ろから抱き上げられた。 「な、な、なにするんですか!離してください!」 「んー、イヤ。怒った顔もカワイイネーv」 「話をすりかえない!」 「手厳しいね、サクラちゃんvでもサクラちゃんこそこんな時間に覗きだなんて。 先生どきどきしちゃうよ?」 「の、覗き?!違いますっ!!!」 「んー、じゃ何してたのかな〜。」 カカシはどう見ても自分の腕の中でじたばたともがいてるサクラをみて楽しんでるようにしか見えない。 「寝付けなくて散歩してたんですっ!もうっ!離してくださいってば!」 「散歩?サクラちゃんの家からここまで結構距離あるじゃない?」 「〜〜〜〜アカデミーに明かりが点いてるのが見えたから…もしかして泥棒かな、って思ったから…」 (いいかげん離してくんないかな〜セクハラ教師っ!) 自分の顔が不機嫌になっていくのが解る。 「ふーん。じゃ、鍛錬場を覗いていたのは?」 ふと上を見ればカカシはいつもと同じく額当てと面布をしていた。 (ばれてた…ちぇっ。また素顔が見れなかったナ。) 「秘密です。」 まさか素顔を拝めるかも知れない、と粘っていたなどとは言えない。 「ひみつ、ねぇ。」 くっくっくっ、と出ている右目を細めて笑っている。 …なんか全てを見透かされているようで面白くない。 「いいかげん離してください!」 思い切り両手両足をバタバタさせる。 「おいおい、危ないよ。」 まだ笑いながらようやくカカシはサクラを地面に降ろした。 「帰りますっ!」 (もう、何かバカにされてるみたいでムカツクってんのよ!しゃーんなろ!) 「まちなさいって。送ってあげるから。」 ぷりぷり怒っているサクラの頭を優しくなでる。 「いいですっ」 「ま、そんなこと言わないの。ジュース奢ってあげるから。」 カカシはサクラが怒っているのも気にせず、小さな手を握ると、にっこりと微笑んで、 「帰ろっか。」 こんな顔をされてしまっては無下に断るのも悪い気がしてくる。 それに繋がれている手がなんだかくすぐったい気がして。 「…うん。」 と返事をしていた。少し顔を赤くなっているのが自分でもわかる。 「うんうんv素直が一番。」 カカシはニコニコして歩き出した。 「ねぇ、先生。」 「ん?どうしたの。」 「いつもこんな時間まで鍛錬してるの?」 「あー、今日は特別。普段はもう少し早く切り上げてるよ。」 「先生ってこういうことしないのかと思っていた。」 「おいおい…そりゃないでショ。サクラ達の先生でもあるけど、現役の上忍でもあるんだから。」 「もしかしてそのせいで遅刻を?」 「……ちょっと違うな。」 「違うって?」 「う〜ん…ま、色々とね。」 カカシはふと足を止めると目の前の自販機に小銭をいれスイッチを押した。 ガラン…という音と共に取り出し口に缶が落ちてくる。 「ほら。先生の奢り。」 プシュ、と口を開けてからサクラにアイスココアの缶が手渡される。 「あ、ありがとう…」 手渡されたココアの缶はひんやりしていて気持ちよかった。 「オレンジの方が良かったかな?」 「ううん。ココアも好きだし。」 「そっか。」 「先生はいらないの?」 「別にいいよ。俺はね。」 「ふーん。」 (ホントにいいのかな?私一人で飲んじゃって。) 「ねぇ、先生はココア嫌い?」 「嫌いじゃないよ。どうして?」 「ね、半分コしよ?」 コクコクッ、と半分飲んで缶を差し出す。 「サクラが全部飲んじゃっていいよ?ね?」 「ダメ!だって悪いもん!それに疲れているときは甘い物っていいんだよ!」 もう一度ココアを差し出した。 (あっ…先生ってば苦笑いしてる!あきれたのかな?) そう思ったとき、カカシはサクラの手から缶を受け取ると、 面布をクイッとさげて残っていたココアを飲み干した。 「ごちそうさま。」 空き缶をごみ箱に投げ入れる。 「せん…せい?」 (うそっ…面布はずしてる!) 「ん?なに?」 クルリと振り向いたカカシはサクラが考えていたよりずっと精悍で整った顔立ちをしていた。 「面布…」 「ああ、そりゃしたまま飲めないでしょーが。」 そりゃごもっともな話だ。 「で、感想は?」 「え?感想?」 「見たかったんデショ?面布を外したトコ。」 ばれてる。 「…してない方がいいよ。」 そのままのほうがカッコイイ、と続けた。 「そう?んー、でもこの代償は高くつくかもね。」 「代償ぉ?!」 「そ。いつもならここまでみて無事なヤツはいない。」 キラリとカカシの眼が光る。 「……どうする気?」 サクラが身構える。 「ん?こうするだけ。」 フッ、とカカシが動いたかと思ったときには、唇にやわらかい感触。 (なになになに?!ここここれって!) 眼を白黒させながら慌てているサクラにカカシが一言。 「代償は払ってもらわないと、ね。」 と何事も無かったかのようにいった。 「フ、ファーストキスだったのに〜!初めてのキスはサスケくんと、って決めてたのにぃ!」 ギロリとカカシを睨みつける。 「だから高くつくかもね、っていったでしょ。」 ニコリと満面の笑みを浮かべると、 「サクラの家はすぐそこでしょ?真っ直ぐ帰りなさい?」 と一言残しサクラの前から煙のように消え去った。 ポツンと一人取り残されるサクラ。 「……っせんせいのばかぁ!っこのエロ教師ぃ〜〜〜〜!!!」 暗闇の中にサクラの怒鳴り声が響き渡っていた。 2001.03.04 終了〜v カカサクです。ややあま仕立て。 次はカカティー視点で、です。 でも続きを書けるような感じだねぇ。 このラスト。 |