ずっと…
ずっとそばにいてね…?

約束だよ?






うそ!

絶対に信じないんだから!

…嘘だと言って。

お願い…





オイテイカナデ…

オネガイ…。






ずっと…






トントン…ドアをノックする。

「春野サクラ、参りました。」

「入りなさい。」

部屋の中から重苦しい返事が聞こえた。

「…失礼します。」

音もなく部屋の中へ滑り込み見ればそこにはサクラを呼んだ火影の他にもイルカ、ナルト、サスケの姿があった。

「あれ?サスケくん達、任務終わったの?」

彼ら二人はすでに上忍として任務を着実にこなしている。今も任務中のはずだ。

「「……」」

二人はサクラと視線を合わせようとしなかった。

「?…変なふたり。」

「サクラ。」

「はい、火影さま。」

「しっかり聞いて欲しい。そして現実を受け止めてくれ。」

「……なんですか?」

何か嫌な予感がする。そういえばサスケとナルト、二人だけで任務に就いていたっけ?
もう一人…ほら、あの人。

「サクラちゃんってばよ…これ…。」

ナルトがサクラの目の前に見覚えのあるものを差し出した。

「これ…木の葉の額あてじゃない…」

サクラは受け取り、まじまじと眺めた。よく知っている、木の葉の忍なら必ず身に付けているもの。しかもこの額当ては。

「これまさか…」

間違うわけが無い。これは今回の任務の前に彼の額当てと交換したはずだから。

「うん…ごめんね、サクラちゃん…」

ナルトは悲痛な面持ちでサクラを見つめた。

「そういうことだ、サクラよ。持ち帰れたのはそれだけなんだよ…残念だが。彼の亡骸はあまりに多くを語るのでな…」

「う…そっ!……うそよっ!帰ってくるって!帰ってくるって言ったのよ?!」

その翡翠色の両目から涙が溢れてくる。

「サスケくんもついていたんでしょう?!どうしてよ!どうして先生だけ…」

サスケの胸を拳でドンドンと叩く。

「サクラ…すまない…。」

そのままサクラは泣き崩れて嗚咽をあげた。

「先生…ずっと一緒に居てくれるって約束したのに…どうして…」

「仕方なかったんだ。俺たちを逃がすために…」

「いや!信じない!先生が死んだなんて。」

「春野…『忍』として覚悟はしていただろう?それに自分だって…」

イルカが諭すように言った。

「だって強かったのよ?誰よりも。どんな任務でも私のところに帰って来てくれたのよ!」

それなのに…とサクラは力なく呟いた。

「サクラ。でもコレが現実だ。」

「サスケくん…」

「サスケってばよぉ…」

「ナルトは黙ってろ。いいか、サクラ。カカシは死んだんだ。」

「う…そ…よ……」

「あっ!サクラちゃん!!」

ナルトが叫ぶと同時にサクラはその場に倒れていた。










「サクラちゃん…」

…なに?

「大丈夫?」

…どうして?

「だってよ…」

重たい瞼を開けると白い天井に心配そうに自分を覗き込むナルトの顔があった。

「ここは…?」

「サクラちゃんってばよ、倒れちゃったから医務室まで運んだんだってばよ。」

「そう…。」

ゆっくりと身体を起こす。頭がずきずきと痛んだ。

(そっか。私倒れたんだっけ。)

ああ、そうだ。とても信じたくない事を聞かされて。結局気を失ったのか。

「フフ…中忍のクセにダメね…取り乱しちゃった…」

「サクラちゃんってばよ、こんなときくらい泣いてもいいってばよ。」

ナルトはそう言ってやさしく頭を撫ぜた。その仕草はまるでカカシがいつもサクラを撫ぜるときのようで。見る間に両目に涙が溢れ、そしてこぼれおちる。

「ふっ…うぇぇ…先生ぇ…」

口元を抑えてはいたが嗚咽が漏れた。

「サクラちゃん…」

ナルトはそれ以上何も言わず、ただ、そっとサクラを抱きしめた。
サクラはそのまま静かに泣き続けた。



どの位経ったのか。サクラが顔を上げて口を開いた。

「…ごめん。」

「ん?なにが?」

「だってナルトだって待ってる人いるじゃない。なのに私に付き合わせちゃって。」

「いいってばよ。これくらい。サクラちゃんをこのままにしていた方が怒られたってば。」

気にしなくていいってば、とナルトはニカッと笑う。

「そういえばサスケくんは?」

「まだ火影様に報告中。」

「そっか。ね、私はもう大丈夫。ナルトも帰っていいよ?」

「ん…じゃ、そうすっかな。じゃ、またね、サクラちゃん。」

「ん…ありがと、ナルト。」

ナルトが医務室を出た後、しばらくサクラの嗚咽が聞こえていた…








「ね、サクラちゃんどうだったの?」

「…ヒナタか。ん…なんとか、かな。」

「そっか…でも今が大事だから…」

「辛い…よな。やっぱ。」

「そうだね。でもきっと大丈夫だよ…サクラちゃん強いから…」

私とちがってさ…ハハ、とヒナタが笑った。

「ヒナタ…。」

「ね、早く帰ろう?ご飯作ってあげる。」

ニコッと笑うとヒナタはナルトの腕に自分の腕を絡ませた。

「急にどうしたってばよ。」

「こうしていられるのはとてもシアワセなんだな、って思ったの…」

「……」

夕日が二人を照らしていた。











「サクラ!ご飯たべなきゃだめよ。」

「食欲ない…」

「食べなきゃダメ。倒れてしまうわ。」

「ごめん…お母さん…」

本当はなにも食べたくないのだけど両親が心配するので無理やり食事を詰め込む。気のせいなのだろうが、味がなにもしない。なにか無機質な物を食べているようだ。

「ごちそうさま…」

無理やり食事を詰め込み席を立つ。

「どこ行くの?」

「ヒナちゃんとこ…」

「気をつけてね…」

「うん…」








別にどこでも良かった。一人で居ると思い出してしまう。あの人が居ない事。信じたくない事実。ふらふらと町を彷徨う。

「サクラちゃん!」

「あ…ヒナちゃん…今行こうと思ってたの…」

「じゃ、家いこっか。」

「ありがと…」

他愛もない話をしながらヒナタの家に向かった。




「ちょっと待ってて…」

パタパタと家の中に入っていく。


…ね、ごめん。

…いいってばよ。

…じゃ、後で…


ひそひそ声が聞こえてきた。

(ナルト居たのか…ヒナちゃんに悪い事したな…)

「サクラちゃん入って。」

ひょこっとドアから顔を覗かしてサクラを促した。通された部屋は白っぽいインテリアで統一されていて涼しげだった。

「そこ座ってて?」

台所からお湯の沸く音が聞こえてきた。

「ココアでいい?」

「うん…ごめんね。」

ココアをテーブルに置きながら、どうして?とヒナタは首を傾げた。

「だってナルト居たんでしょ?」

「…ばれてたの。」

「わかるよぉ。でもありがと。」

ヒナタの入れてくれたココアに口をつける。口の中にじんわりとココアの香りが広がる。
ほっとする味だった。

「サクラちゃん…大丈夫?」

「…なんとかね。こうしてなぐさめてくれる親友もいるし。」

ペロリと舌をだす。

「なにか力になれることがあったら遠慮なく言ってね?」

いのちゃんも心配してるのよ?とヒナタが言った。

「ふふっ…頼りにしてるね。」

力なく笑うサクラは今にも消えてしまいそうだった。









「平気か、サクラ。」

「大丈夫。いける。」

「ムリしないで休んでもいいってばよ?」

「大丈夫だってば。時間に遅れる。早く行こう。」

目的地に向かって木々の間をすり抜けていく。


あれから一ヶ月。いつまでも落ち込んでいるわけにもいかない。
久しぶりにナルトとサスケと組んで任務へとでた。二人は自分を置いて上忍になっていて。
自分は中忍だったからあの任務にもついていけなかった。
もし一緒に行けてたなら。それはムリな願い。自分の弱さが招いた結果だから。
もう後悔したくない。だから今回の任務に訳あって同行した。
任務自体は上忍であるサスケとナルトにはさほど難しくもなく。
ある組織のボスの暗殺をサスケとナルトは難なくこなしてしまう。
任務の帰りにある場所に立ち寄ってもらって。
花を供えてきた。そんなことで忘れられるわけじゃないけど。

少しは気持ちの整理がつくかな、と思って。



「サクラちゃんてば、顔色悪いけど大丈夫?」

「ん…平気。」

「本当に大丈夫か?」

「やだなぁ。サスケくんまで。本当に大丈夫……。」

そう返事をしたときだった。
視界がグラリと傾いて。

「サクラ!!」

「サクラちゃん!!」

二人の叫び声を聞きながらそのまま意識が遠のいていった。





「あら。目が覚めた?気分はどう?」

「紅先生…ここは?」

「あなたの部屋よ。しかしね。寝不足と栄養失調。そんな状態でよく任務についたわね。サスケくんとナルトに感謝するのね。」

「すみません……」

「で。どうしたの?私じゃ相談相手にならないかしら。」

紅先生はふわりと微笑んだ。その微笑みが胸に染みた。

「…夢を見るんです…」

ポツリポツリと話す。

「夢?どんな?」

「先生の夢。血まみれで死んでく夢。そばに行きたいのに邪魔されていけないの。」

「それが原因?」

「いつも先生が死ぬ瞬間に目が覚めて…心臓がどきどきして…眠るのが怖い。先生が死ぬ夢を見てしまうのが怖い…」

「そうだったの…食事は?」

「食べてももどしてしまうんです。食べなきゃ、と思えば思うほど…」

情けないです、とサクラはうなだれた。

「…こんなときに不謹慎だけど。」

「?」

不思議そうに紅の顔を見る。

「カカシはシアワセね。こんなに思われていて。でもあなたがそんなだと悲しむわよ?」

「そう、ですか…?」

「そうよ。でもとにかく今日は眠りなさい?そして少しでいいから食事を取りなさい。じゃないと取り返しがつかなくなってしまう。」

「努力します。」

「イイコね。それじゃ、今日はもう休みなさい?ね。」

「はい…わざわざありがとうございました…」

「じゃあね。」

紅は静かにサクラの部屋からでていった。









「限界ね。あの子が壊れてしまう。その前に。」

そうつぶやくとその場から煙のように消えた。












ちらちらと眼の前を何かが舞い落ちる。

何かと眼を開けると桜の花びらが風に舞って落ちてくる。

「……ラ…」

…だれ?

「サ…クラ…」

聞き覚えのある優しい声。忘れる訳がない。振り向けばそこには一番逢いたかったあの人の姿。

「先生…?」

「サクラ…逢いにきたよ…」

「先生っ…!」

ふらつく身体に鞭うって愛しい人に走りよる。
身体が弱っているせいでうまく走れずつまずいて転ぶ。

「サクラ!」

地面にぶつかる前に身体がしっかりと支えられた。

「ホントに先生…?」

「そうだよ。サクラが心配で化けて出てきた。」

ふわりと笑ったその顔には額当ても面布もしていなかった。

「こんなにやつれて…」

サクラの頬を触る。

(おっきくて暖かい手…ホントに幽霊?)

幽霊にしてはずいぶんと存在感があった。
でも。今は桜の時期ではない。ここのように見事な桜が咲くわけがない。夢、だから?
こんなに先生の存在感があるのは私の願望だから?でも今はそんなことはどうでもいい。
今は手の届く所に居るのだから。

「先生…逢いたかったよぉ…」

カカシの姿が歪む。後から後から涙が溢れて。言葉にならない。
そんなサクラをカカシは優しく抱きしめて泣きじゃくるその瞼に、頬に唇にキスを落とした。



「落ち着いた?」

「ごめんね、先生…。」

「どうして?」

「一杯泣いちゃって…」

「俺が悪いから。いいの。サクラは気にしなくて。ね?」

「先生が幽霊なんて嘘みたい。こんなにあったかいのに…。」

「ここはサクラの夢の中だからね。」

「夢でも幽霊でも先生に逢えて…嬉しい。」

「俺もだよ、サクラ。」

「言いたい事がたくさんあったのに。先生見たらどうでもよくなっちゃった…」

桜の木の根元に腰掛けているカカシの胸にコトンと頭を寄りかからせて両目を瞑る。

「ふふ…先生の心臓の音が聞こえる…まるで生きてるみたい…」

「サクラ…」

ツイと顎に手を添え、サクラの顔を上げさせて優しい優しいキス。
自然とお互いを求め合う。桜の花びらが舞うなか、それは神聖な儀式のようにも見えた。







とても幸福な夢を見たの。

あの人に抱かれる夢。

何度も耳元で囁かれた言葉。

目が覚めたとき幸せで涙がでた。







「最近元気だね。サクラ。」

「ん。まあね。色々と。」

あの夢のおかげとは恥ずかしくていえない。
すごく幸福な夢だったけど、人にはちょっと言えない。
つくづく自分は単純なヤツだったんだな、と思う。
夢でもまた逢えるかもしれないと思ったらもう少し頑張ってみよう、という気持ちになったのだ。

「顔色もいいし。一時はどうなるかと心配だったんだからね!」

いのはびしっ!と指さした。

「ごめん…いの…」

「ま、こうして元気になったみたいだからいいけどさ。」

でも本当に心配だったんだよ〜と笑った。


…自分はなんて幸せなんだろう。こんなにみんなに思われていて。ね、カカシ先生。






…久しぶりのアカデミー。イルカ先生、居るかな?
そんなことを考えながら任務受付室の方に急ぐ。
背後から急に声がした。

「そろそろ任務のほうも大丈夫かしら?」

「あっ!紅先生。」

「あら。私はあなたたちの先生じゃないわよ?」

「へへっ…紅上忍、ですね。」

ペロリと舌を出してはにかむその姿にほっ、と安堵する。

「よかったわ。すっかり元気になったみたいで。」

「……夢をみたんです。とても幸福な。それでもう少しがんばろう、って思えたんです。」

「じゃあ、もうあの夢は見ていないのね?」

「はい。」

「よかったわね…。」

「紅上忍にも心配かけましたが、大丈夫です。またよろしくお願いします。」

「それじゃ、早速でわるいのだけど、ヒナタといのと三人で任務にあたってもらえるかしら。」

「はい!紅上忍!」

「くわしいことは受付のほうで聞いてきてね。」

思っていた以上に元気に走り去っていく姿に紅は苦笑していた。

「とりあえずヨシ、という事にしておきましょうか。」






「さて。うっきー君。帰ってきたら世話してあげるから。」

サクラは気持ちが落ち着いてからはちょくちょくカカシの部屋に足を運んでいた。
そして彼が世話をしていた観葉植物(!)の面倒を見ていた。
忍犬たちはアカデミーで面倒をみている。本当はうっきー君も自分の家に持っていけばいいのだろうけど、ここに来る理由が無くなってしまうのもなんだか悲しくて伸ばし伸ばしにしていた。
そして今は主に使われる事がなくなってしまったベットの側に置かれている写真を手に取る。

「下忍になりたての頃の写真か…カカシ先生、行ってくるね。」

写真の中のカカシにちゅっ、とキスをして部屋を後にした。











「ひまだ〜」

「うるさい!だまって仕事しな!」

「だって〜」

「だってじゃない!これも大切な任務でしょ!」

「サクラちゃん…いのちゃん…静かにしようよ…」

「「ヒナタはだまっててよ!」」

「…は…い…。」

可愛そうに二人に怒鳴られてうなだれている。

「そもそもなんで中忍のあたし達がこんな事しないといけないのよぉ!」

「しかたないじゃない!大名さまの依頼なんだから!」

「だってこれなら別に一般人でもいいじゃないのよ!」

「でもサクラちゃん人に教えるの上手だよね?」

「そういうヒナちゃんこそ。」

「…わたしは?」

「…うっさい、いのぶた。」

「なに〜?そっちこそうるさいのよ、でこっぱち!」

「でこっぱちいうな〜!!!」

「そっちこそいのぶたいうな〜!!」

「…ふたりとも…さっさと終わらせようよ…」


さきほどから依頼のあった大名家の庭の草むしりをしていた。べつに草むしりの依頼があったわけじゃない。本当はここの子供の家庭教師と護衛の任務だった。
訳あってここの警備が手薄になってしまう二週間の間の子供たちの護衛と家庭教師を仰せつかったのだ。しかしなぜか草むしりまでヤルはめになってしまった。すでに半日。いいかげん愚痴も出てくる。

「そろそろ涼しくなってもいいのに…暑いな〜。でもあと三日でこの任務ともオサラバなんだけどさ。」

「そうだね。もう少しだから頑張ろうよ。ね、サクラちゃん。」

「うん……」

「どうしたの?真っ青だよ?!」

「ねぇ、大丈夫なの?サクラ!」

「ちょっと立ちくらみ…少し休めば平気だから…。」

「サクラちゃん、休んでて?後はいのちゃんと二人でやるから…。」

「ごめんね…」

「木陰で休んでなよ。後は二人でもできるからさ。」

二人はサクラを木陰に連れて行き座らせた。

「ありがとう…」

「ま、そこで見ててよ。」

そう言っていのとヒナタは草むしりに戻っていった。




結局サクラは残りの三日間は寝て過ごした。体調が回復しなかったから。

「どうしたんだろうね。サクラがこんなになるなんて。」

「さっき伝書飛ばしたから迎えにきてくれるよ。それまでここに居させてもらえるように頼んできたし。」

「二人ともごめんね…こんなことになっちゃって…」

「いいって。気にしない、気にしない。」

「でも危ない任務中じゃなくてよかったね。」

「とりあえずなんか食べたら?」

「ううん。欲しくない…」

「ここ三日まともに食べてないじゃないの。身体に良くないよ…」

「サクラちゃん…」

「大丈夫よ。食べたくない訳じゃないから。でも今はいらない…。」

「じゃ、なんか食べたくなったら言ってね?」

「わかった…」

「少し眠ったほうがいいよ…。」

「ん。そうする。」


ほどなくサクラから寝息が聞こえてきた。

「でも本当にどうしたんだろうね。」

「変な病気じゃなきゃいいけど…」

「物騒な事言わないでよ…いのちゃん…」

「あくまでも可能性の話。そんなことあったら困るわよ。」

「早く良くなるといいね。」

「うん。早く里に連れて帰らなきゃね。」

「後は迎えを待つだけだね。」

そして夜は更けていった。






「おい。いの、ヒナタ。起きろ。」

「ん…あれ?」

「里に戻るぞ。」

「あ…サスケくんいつここに?」

「ちょっと前についた。ここの領主に挨拶も済ませてきた。で、サクラは?」

「あっち。奥の部屋で寝てる。」

「ヒナタ起こしておいてくれ。すぐ里に戻る。」

「わかった。」





「サクラ…倒れたんだって?」

「あ…れ…サスケくん?ウン…まぁね…。」

「また寝不足と栄養失調じゃないよな。」

ジロリと睨まれる。

「違うよ〜なんか急に具合が悪くなったのよ…」

なんか情けないね〜、とサクラ。

「原因わかんないのか?」

「うん…自分でもちょっと…何なのかな。」

「とにかく里に戻ろう。全てはそれからだ。」

サスケはサクラを背負うといの達に声をかける。

「戻るぞ。二人とも準備はできてるな?」

「OKだよ。すぐ出れる。」

「じゃ、いくぞ。」






サスケの背に背負われてサクラは変な気持ちだった。
少し前まではみなさほど体格差もなく、こんな風に背負ってくれるのはカカシ先生だったっけ。
みんな変わったんだよね。先生に逢いたいな…夢でもいいから…






「なにが原因ですか?病気ですか?」

「とりあえず病気じゃないですよ。いま栄養剤を飲ませましたから。」

「大丈夫よ。後は私が見てるわ。みんな任務の後なんだから戻って休養を取りなさい。」

「解りました。じゃあ、後をお願いします。」

「サスケくん、あなたもよ。サクラちゃんをおぶって帰ってきたんだから。休んでおきなさい。」

「たのんだぞ…紅…」

「生意気に。先輩は敬いなさい?」

「フン…」

「…あいかわらず意地っ張りね…」

姿の消えたサスケに向かってつぶやいた。





「サクラちゃん…起きてる?」

「紅上忍…」

「ちょっと話があるの…」

「なんですか?」

「あなたのことで。」

しっかり聞いてね?と紅は話し始めた。




「えっ?!」

「本当よ。今日はこのまま休んでいくといいわ。むちゃはしないでね…」

何かを告げると医務室から出て行った。
後には困惑しているサクラだけが取り残されていた。














サクラはカカシの部屋に来ていた。

「うっきー君。私どうしたらいいんだろう。先生裏切っちゃった…。」

うっきー君はさわさわと風で葉を揺らす。

「夢でも…もう二度と逢えないな…」

悲しげに笑う。

「ね、どうすればいいと思う?」

うっきー君はさわさわと葉を揺らすばかりでやはり答えてはくれなかった。

「やっぱり覚悟しなきゃだめだよね…」

ベッドに身を投げ出し両手で顔を覆って静かに泣いた。




どのくらいそうしていたのか。
諦めてベットから身を起こして部屋から出て行こうとした。

「行くな。」

「?!誰っ!」

「もう忘れちゃった?」

忘れる訳がない、その声。
恐る恐る振り向けば部屋の中には一番逢いたくて、逢えなくて、逢いたくない人。

「どうして?また夢?それとも私が死んだの?」

「違うよ。現実だよ。帰ってきたんだ。」

「どういうこと…?」

「俺は死んでない。ちゃんと生きてるよ。ほら。」

そういってサクラを抱き寄せる。

「いや…私先生に合わせる顔がないの…お願い…放っておいて…」

夢でも、幽霊でも、合わせる顔がないの…イヤイヤをしてもがく。

「もうはなさい。俺だって我慢の限界だったんだ。それに…」

サクラの耳元でゆっくりと囁く。

「産んでよ。俺の子供。」

腕のなかでビクッ、と震えるのがわかる。

「え?センセイの子供…?」

「そ。ここにいるでしょ?」

そういって愛しそうにサクラのお腹を触る。

「うそ…だって…どうして…?」

「俺とサクラの子供だよ。」

「えっ…まさか…」

夢だと思っていた事を思い出す。

「そのまさかだよ。こういう結果になるとは思わなかったけど。」

「でもどうして…?本当に辛くて辛くて…何度死んでしまおうかと…」

いままで堪えていた涙が溢れてきた。

「仕方なかった。どうしても俺の存在を隠す必要があったから。だからサクラに逢えなかった。」

「じゃあ今は?」

「全てが片付いたから、こうしてここに居る事ができる。」

だから泣かないで、側にいるから…そう言ってキスをした。







「先生どうして子供のこと知ってたの?」

「ん…いや…紅に怒られたよ。もう少し考えて行動しろ、って。」

「え?どういうこと?」

「あー、ナルトとサスケには感謝しないとな。あのときサクラに逢うために火影様に掛け合ってくれたしな。」

「……………」

「サークラちゃん?」

「ひどい!私だけが知らなかったの?!」

「い…や、あのね?知っていたのは火影様と一部の忍だけ。本当に信用の置ける……」

「私は信用できなかったのね?!」

凄い剣幕でまくし立てる。

「そうじゃないよ…サクラ。サクラは俺に近すぎた。あまりにも。」

「それに、もし生きてるって解ってたらこうはならなかったでしょ?そしたら折角の偽装が無駄になる。」

「もし本当に命を絶ってたらどうするつもりだったのよ!」

「いのちゃんとヒナタちゃんにも頼んでおいた。いつも一緒にいてくれたでしょ?」

そういえばいのもヒナちゃんもいつも一緒にいてくれたっけ。

「それにサクラは強い。だから大丈夫だと思っていた…けど…」

「けど?」

「違った。今回のことで思い知らされたよ。」

「……」

「なんて弱々しいんだろうって。まるで別人みたいだった。このまま二度と逢えないんじゃないか、って。」

いくら任務の為だったとは言え、こんなに辛いとは思わなかったよ、と力なく笑った。

「もういいよ…先生無事だったんだし…任務中にも逢いにきてくれていたんだし。」

「ああ…紅に何とかしないと取り返しがつかなくなる、って言われたんだ。ナルトとサスケがその間代わりを務めてくれていた。」

「じゃあ後でお礼言っとかないと。」

「そうだな…」



「もうだまって消えたりしないでね?」

「今回みたいな任務はもうないよ…二回も出来るような作戦じゃないし。」

カカシはしっかりとサクラを抱きしめる。

「それに今後は実戦部隊から外れることになるし。ね?」

「えっ?そうなの?どうして?」

「だって今回の作戦はかなり際どいものだったし、同じ手は使えないからね。」

「そっか…なんかほっとしちゃった。じゃあこれからどうなるの?」

「うーん、新人を育てる事になるかな。これも大事な任務だしね。」

にっこり微笑んでサクラを見つめた。





「こんな苦しい思いするの、やだからね?」

「だまってサクラを置いていかないよ…約束するよ。」

それにね、と

「だって絶対死ねなくなっちゃったし。この子の顔見ないと。
女の子だったら悪い虫がつかないようにしないとならないしね。」

「…悪い虫?先生みたいな?」

「………;」

カカシが絶句している姿をみてサクラは思わず吹き出してしまった。

「うそだよ、先生。冗談。」

クスクス笑いながら先生みたいな素敵な人、いないよ?そう言った。





「ずっと離さないでね…」

「いやだ、っていっても離してあげないよ?」

「このまま、ずっと、ね…」



二人の間を穏やかな風が吹き抜けていった…









2001.3.9

やっとこ書き終わりました。やれやれ。
最後は支離滅裂ぎみ。くやしい。
本当はもっとカカティーカッコよく書きたかったんだけど…
ま、私はこんなもんでしょう。精進しますわ。本当。