チェンジ! = 透 =

ジリリリリリリリ……

ん…。もう朝ですか?頭がなにやらクラクラするのです…。風邪、でしょうか。

透はベットからやおら手を伸ばし目覚ましを止める。

身体はだるくないです。朝ご飯の仕度をしませんと…。

透がやおらベットから起き上がり、着替える。

キィ…パタン…ダダダダダ……

…あや?今の音は由希君の部屋の方から聞こえたのです。こんな早くから珍しいのです。


トントントン…
階段を下りて居間の方に入ると、夾はもちろんだが、由希、さらに紫呉の姿があった。
夾と由希は元気がなさそうにみえた。


「あ、みなさん、おはようございます。お早いですね。」
透はにっこりと笑いかける。
「「…。」」
「あ、おはよう、透くんv」
夾と由希は返事をしない。
「あの…お二人とも具合が悪いのですか?」
「あ、いーの、いーの。何とも無いから。ね、由希くん、夾くんv」
「「…。なんともないだと?」」
珍しく二人がはもる。
「そ。別に病気じゃないでしょ。」
紫呉は二人の冷たい視線など気にしていないようで、にこにこと二人を見ている。
そのただならぬ雰囲気にあわてて、
「き、夾くん、由希くん、どうなさったのですか?!」
透が三人の間に割って入ろうとした瞬間。

「あっ!」

「「あぶない!!」」

テーブルにつまずいた透を二人が支える。

ガタン…。

「いってぇ〜」
「大丈夫?本田さん。怪我はない?」
「わ、私は大丈夫です!!」
「おい…早くよけてくれよ…。」
「あああっ!ご、ごめんなさいです!す、すぐ避けます…。」
「あ、いや、透じゃなくて…。」
「で、でも私が一番上なのです〜(T_T)」
そう。倒れかけた透を支えようとして、結局夾と由希が下敷きになっていたのだ。

「…大丈夫かい?透くん。」
「はい…お二人が助けてくださったのです〜。」
紫呉が透に手をかしてやる。
「二人も平気かい?」
「早くこいつを避けてくれ!!!」
夾の上にはまだ由希が乗っている。
「どうしたんだい?由希君。」
「…変身しない…という事は…やっぱり…」
ぶつぶつとつぶやいている。


「あの…どうしたんでしょうか…。」
透はいつもとあまりにも雰囲気の違う二人に戸惑っているようだ。
「おい、紫呉!どうでもいいから、早くこいつを避けてくれ!!」
由希の下敷きになっている夾が紫呉に文句を言っている。
「ハイハイ・・・由希君を大丈夫かい?」
そう言いながら由希を立たせる。
「あ…うん。」
由希は上の空で答える。
「夾くんも大丈夫かい?」
「そ、そうなのです〜(>_<)お二人とも怪我はありませんか?」
透はあわてて二人にかけよる。

「ん…ああ、大丈夫だ。」
「……」
「由希くん?」
心配そうに透が由希を見、そして夾に視線を向ける。

「…大丈夫だろう?別に。」
透の視線をうけ、夾が答えた。

「透くん、透くん。二人とも大丈夫だから。ちょっとこっちに来て?」
紫呉が透を手招きしている。
「なんでしょうか、紫呉さん。」
トコトコと紫呉に近寄っていった、その瞬間。
がばっ!といきなり紫呉が透に抱きついた。
「!?あ、あの…紫呉さ…!」

ボン…!!

そこには犬に変化した紫呉がいて、のほほんと一言。
「んー、変身しちゃったか。」

「紫呉さ…/////」

「「なにやってんだーーー!!!」」

スパコーン!!
スリッパの音も高らかに、由希と夾の同時突っ込みが入った。

「ひどいなぁ。君たち。抱き付いただけじゃない。」
悪びれた様子も無く、さらりといってのけた。

「あのなぁ…透が困るだろう…透もイヤなら突き飛ばしたっていいんだぜ?紫呉なんか。」
「おいおい…紫呉なんか、なんて酷いなぁ。夾くんは。ねぇ、由希くん。」
「…いいんじゃないたまには?突き飛ばされてみるのも。」
「…由希くんまで…酷いなぁ。^_^;」
「あ、あの、私は平気なのです(>_<)」
「いいんだよ、本田さん。付け上がるから。」
「その通りだ。」
珍しく意見が一致する二人である。

冷たい視線が紫呉に注がれる。
「いや、あのね?んー、実はねぇ…その…」
「だーっ!!何が言いたいんだ!はっきりいえよ!」
しびれを切らして夾が文句を言う。
「そうだよ。はっきりいいなよ、紫呉。」
「由希くんまで…(T_T)じゃぁ、白状しましょうか。」

思わずみんなの視線が紫呉に注がれる。

「由希くんと夾くんに使ったアレ、透くんにも使ったの。」
「なっ…!使った、だぁ?」
「えっ!本田さんにも?」
「なんの話でしょうか?」
紫呉は一瞬、やっぱりまずかったか、と言う表情をみせた。


「「しーぐーれー…!!」」
全ての諸悪の根源はおまえか、と言わんばかりに睨みつける。
そしてそれについていけない人物が約一名ばかり。

「あっ!だ、だからちょっと調べてみたんだけど…抱きついて…見て…」
最後の方はかろうじて聞き取れるくらいの声だった。



「まあまあ、ちゃんと説明するから、勘弁してよ、ね。」
紫呉が説明を始めた。
それによると。


ことの発端は綾女の店の常連だったのだ。
「ああ、店長。いつもお世話になっています。今日はね、買い物に来たんじゃないんですよ。」
「おや、違うのかい?今日はこれが仕上がったのに。」
綾女はメイド服を見せた。
「いいですねぇ。じゃあ…じゃなくて。コレ。」
その客は綾女の目の前になにやら小瓶をつきだした。
「なんだい?コレは。」
「コレはですね、性別を変えられる薬なんですよ。」
「性別を変える?」
「そうです。男が女に、女が男に。面白いでしょう?」
その客はニコニコ笑って、
「これ差し上げます。わたしも貰ったものだし、私が女になってもねぇ。」
ふぅ、とため息をひとつ。
「きっと店長なら美人になりますよ。どうせ一日くらいしか効果がありませんので、試してみてくださいv」
そういい残すとさっさと帰ってしまったのだ。
「…さて。どうしようか。」
後には小瓶をもった綾女が一人。
「ま、しまっておくか。」
特に興味がなさそうに店の片隅に置かれてそのまましばらくの間、放置されていた。


「あーや、今日は暇かい?」
「ん?ぐれさんじゃないか!…由希は一緒じゃないね。」
「ははは…;よければ食事でもどうかとおもってさv」
「いいねっ!今準備するよっ!!」
綾女はいそいそと手にしていたセーラー服を片付けはじめた。
そのときふと紫呉の目に例の小瓶が目に止まった。
「ね、あーや。コレはなんだい?」
それはいつぞやの常連が持ってきた妖しげな例の小瓶だった。
「それかいっ!それはなんでも性別が逆転する薬らしいよ!」
そこで綾女は紫呉に常連が言っていたことを教えた。

「ふーん…ねぇ、これもらってもいいかな?」
「いいよ、別に。ボクはそんなもの使わなくても完璧だからねっ!」
フッ、と笑って髪を掻きあげた。
「じゃあ、遠慮なく。」
そしてふたりは食事をとりに出かけたのだった。


「ふーん…で?」
「まさか紫呉おまえ…」
「え?いや…ハハハ…」
「「おれたちで試したな!!」」
ハハハ…とふたりに睨まれて力なく紫呉が笑う。
「まぁ、済んでしまった事はもう忘れて、ねv」
「「……」」


「「忘れるかー!!!」」
「…あ、やっぱり?」

…紫呉さん、墓穴掘ってますよ…^_^;

「墓穴って…キミ、だれ?」

…おおっと、いけない、いけない。私のことは気にせずに。

「紫呉、誰と話してるんだ?」
「なんか声が…」
「ごまかそうたってそうはいかないよ。」
「そうだ。今すぐおまえも飲め!どうせこっそり飲むつもりだったんだろう!」

夾は紫呉の側にあったいかにも妖しげな小瓶を突きつけた。

「もちろん飲むよね?紫呉…。」

にっこりと絶対零度の微笑みを紫呉に向ける。

「…ハイ。」

由希の迫力に押され小瓶を受け取りそのまま中身を飲み干した。

「これでいいのかな…?」

そう紫呉が由希と夾に言ってまもなく。

ガクガクと身体が震えだして…うっ、と言う小さなうめきをもらした。

「ああっ!紫呉さんの身体が…」

透が驚愕の声を上げた。

三人の見ている前で見る見る体つきが変わっていく。

身体全体が丸みを帯びていく。





「くっ…犬に変身するより辛いかも…」

すっかり女の姿になった紫呉が一人ごちる。

「ああ、そうだv今度こそ大丈夫なはずvvv」

そう言って迷わず透に抱きついた。

「し、しぐ、紫呉さん????」

「おっ。やっぱり大丈夫だねぇ。」

うむうむと一人頷いている。

「…うそみたいだな…。」

「ああ、悪夢だ…。」

由希と夾はボーゼンとその光景をながめていた。


「ん〜透くんはどうしてなんとも無かったのかねぇ。」

ま、いいや、と呟くと。

「透くんv買い物いこう?折角ボクも女になっていることだし。二人も来るかい?」

「あ、し、紫呉さん??」

「いこいこv」


こうして妖しげな薬を一瓶飲んで女性に変化した紫呉は透をはじめ、
夾と由希をも引っ張りまわし、心行くまで楽しんだらしい。

…もちろん引っ張りまわされた方はたまったもんじゃなく、しばらく立ち直れなかったらしい。




後日談。

夾と由希は薬の服用量が少なかったので翌日には元に戻ったのだが、
一瓶飲んだ紫呉はそうはいかず、一週間ほどそのままだったらしい。
もちろん、大いに女性である事を楽しんでいたらしいが。



「ね、あーや。どうして透くんは変化しなかったんだろうね。」

「はっはっは!それはね、ぐれさん。男にしか効かない薬だったのだよ!」

「ふーん…ま、いっか。」

(男の子になった透くんも見てみたかったけど。其のうちチャンスがあるかもね。)

なんて事を紫呉は考えていたとかいないとか。


…それにしても綾女と紫呉がそろうとロクなことがない、と由希と夾はあらためて思い知るのであった。

夾くん、由希くん、そして透くん。まったくもってご苦労様でした☆





2001.04.03

…終わりです。長かった…本当に。
最後の話が一番辛かった。ラストが、ラストがぁぁぁ…
このまま抹消しようかと考えた事も。
な、何とか無事書き終えてよかった…本当によかったよぉ…(T_T)

そして楽しみにしていてくれた人たち。
ほんっっっとうにお待たせいたしました。なんとかラストの透編(解決編?!)をお送りします。
結局当初考えていたラストとは違う形になりました。

このような作品ですが、お楽しみいただければ幸いです…^_^;