チェンジ! =由希=

・・・何の香りだろう・・・


いつもと変わらない朝・・・・のはずだった。


「・・・・眠い・・・・・。」

相変わらず朝の弱い由希は半分眠った状態で着替え、
いつものように下へ降りていく。

朝ご飯の準備をしている透に声をかける。
「・・・おはよう・・・本田さん・・・。」

エプロン姿の透がくるりと由希の方に向き、
「おはようございます!由希さん!」
今日はお早いですね、とにこやかに声をかけてきた。

・・・由希さん・・・?
・・・「くん」、じゃなくて「さん」?何故?

由希が動揺していると朝のトレーニングをおえた夾が戻ってきた。
起きている由希をみて、
「ふーん・・・ねむり姫が起きてる・・・。」
朝に弱いやつが珍しいな、とつぶやいている。
「・・・うるさいよ・・・誰が姫だ・・・」
絶対零度の視線で睨む。
「・・・・可愛げのないヤツ。」
二人の視線が火花を散らす。
その様子を見ていた透があわてて夾に声をかけた。

「おかえりなさい、夾くん。すぐご飯食べますか?」
「んー、シャワー浴びてからにするわ。」
透にそう言うと浴室の方に行ってしまった。

「じゃあ、由希さん、先に召し上がられますか?」
「いや俺もシャワー浴びてからにするよ・・・。」
「俺・・・、ですか?」
ちょっと意外そうな顔をしてこっちを見ていた。
「本田さんどうかした?」
「あ・・・いえ。なんでもないのです。」
そう言うとあわてて朝ご飯の準備にとりかかる。

・・・なんだろう。やっぱりおかしい。
どこが・・・・?


「ふ〜っ・・・シャワー空いたぜ。」
濡れた髪をタオルでごしごし拭きながら夾が声をかけてくる。
「ん?ああ・・・。今入る。」
そう答えて浴室の方にむかった。

扉を挟んで本田さんと夾の会話が聞こえる。
「なあ、あいつ何か変じゃなか?」
「いつもと何か違うのです・・・具合が悪いのでしょうか・・・。」
「ま、くそ鼠のことなんかしったこっちゃないけどな。」
「夾くん・・・・。もう少し由希さんに優しくても・・・。」
「いいんだよ。どーせ慊人に優しくしてもらえるんだし。」
「そう・・・ですか?」
「そう。どーせなんかあっても慊人に泣きつくだろ。」
許婚だしな、と言うと、
夾は冷蔵庫から「まいぶぅむ」を取り出し、いっきに飲み干す。
「やっぱ風呂の後は牛乳だな。」


夾と透がいつもの会話を交わしていた。


そんな二人の会話を扉越しに由希はきいていた。

・・・優しくしてもらう?慊人に?
しかも慊人が許婚?なに言ってんだ?あのバカ猫。
そんな訳無いだろ。ありえない話だ・・・

そんな事を考えながら服を脱いで行く。
Tシャツを脱いで上半身があらわになったその瞬間。

「うわあっ!!」

とつぜん叫び声が聞こえた。
「?!由希さん!」
透があわてて浴室に駆け込んだ。

「どうかしましたか!!」

ガチャッ

扉を開けると由希が床にへたりこんでいた。

「由希さん?・・・大丈夫ですか?」
透がそっとバスタオルをかける。
「・・・・・悪夢だ・・・・。」
「えっ?・・・悪夢?」
「そう・・・悪夢。」
ゆらり、と由希が立ち上がる。

「おーい・・・大丈夫か?」
夾が声をかけて来た。
「あ・・・大丈夫です・・・貧血みたいなのです。」
透が返答する。
「由希さん・・・部屋にいかれた方が・・・。」
よろめいている由希を支えようとしたが、
その前にふらり、と浴室から出て行く。

「お、おい?由希?」
夾の目の前を青ざめた顔の由希がバスタオルを羽織ったまま通り過ぎる。
悪夢だ、とつぶやきながら。
明らかに普段と違う由希の様子にさすがに夾も驚いている。

そこへ紫呉がやってきて、
「どうしたんだい?」
と、声をかけてきた。

「あ、紫呉さん・・・由希さんの様子が変なのです・・・・。どうしたのでしょうか・・・」
心配です、と透が由希の後ろ姿を見つめる。

「んー・・・・。とりあえずぼくが様子見てくるよ。」
そう透に言い聞かせ、
紫呉は由希の後を追って二階へと上がる。


トントン・・・
由希の部屋のドアをノックする。

「由希くん?入ってもいいかな?」
紫呉は声を掛け、
返事が返ってくる前に部屋に入り込む。

「・・・・なんだよ、紫呉。」
ベットに突っ伏したままの由希が言う。
「ん、さっき貧血気味みたいだって透くんが言ってたからね。」
様子を見に、と紫呉は微笑む。
「ふ・・・・ん・・・貧血なんかじゃない。」
違うんだ、と頭を振る。
「じゃあ、どうしたんだい?」
やんわりと聞き返す。
「・・・性別が入れ替わっているんだ。」
「はあ?」
紫呉もさすがに驚いた様子で聞き返す。
「性別がいれかわった?」
「そう。夕べまでは男だったはずなのに・・・。」
「・・・・・本気で言ってる?」
紫呉の口元が引きつっている。
「うそじゃない。本当なんだ。」
信じてないだろ、と紫呉を睨む。
「い、いや・・・・あ、あのね、由希くん?」
まいったなぁ、と頭を掻いている。
「・・・ねえ、由希くん、いったい何があったんだい?」
じっと由希をみつめる。

「・・・なにも。ただ、俺は昨日まで男だったはず、それだけ。」
ふうっ、と大きなため息をついた。
「・・・・・そんなに女の子がイヤ?」
紫呉がしゃべりだす。
「たしかに子に生まれたものは性別が違うかぎり当主の許婚に、
と決まっているけど、慊人さんのことそんなに嫌いだったのかい?」
あんなに大切にしてもらってるのに、と意外そうだ。

「大切?そんなばかな。」
由希は信じられない、と言う顔をしている。
「アレだけの仕打ちをされていまさら・・・・」
ふいっ、と顔をそらすとベットにつっぷす。

「うーん・・・信じられないけど本当に別人、なのかな?」
「さっきから言ってるだろ?」
「・・・・そうだとすると・・・。どうして君はここに来てしまったんだろうね。」
紫呉は首をひねっている。
「わからない。朝起きたらここにいたから。」
ふと、由希が、
「そういえば、なにか甘ったるい匂いがしてたっけ。」
「それがきっかけかもしれないね。」
一人で何か勝手に納得している。
紫呉の性格はどこでもおなじらしい。

ポン、と手を叩き、
「ねえ、とりあえずもう一眠りしてみたらどうだい?
もしかすると元にもどれるかもよ?」
うんうん、と頷いている。

・・・・・どこまで本気なんだ?紫呉のヤツ。

でも他に特にいい考えもなく。
しかたないので紫呉に従うことにする。

「透くん達には適当に言っとくから、安心しなさい。」
「ま、ものは試し、ということで。」
「じゃ、おやすみ。」
そう言って紫呉は部屋から出て行った。

「・・・とりあえず寝てみようか。」
おとなしくベットに潜り込んで目を閉じる。


程なく睡魔が訪れて由希は眠りについた。



つづく。



さて。どうなるんでしょうね〜くすっ。
一応次の話で完結するはず?なのです。こう、ご期待を。