風邪にご用心
夕食時。
「あしたはぼく、同窓会でお昼前に出かけるから。」
泊まりだから、と紫呉。
「では、明日の夜は由希君と夾君と三人分でいいんですね。」
「うん、そうだね。ま、三人ともお土産期待しててよ。」
「どうしたの?食べないのかい?」
不意に紫呉が問い掛ける。
「ちょっと食欲がないのです…」
透が答える。
「なんか、顔色が悪いよ、本田さん。」
心配そうに由希が顔を覗き込む。

「学校でもあんまり調子よくなさそうだったな。」
と夾。

「とにかく、今日はもう寝なさい?後はぼくたちにまかせて。」
にっこりと微笑んで言い聞かせる。

「そうだよ、今日はもう休んだほうがいいよ。」
由希も紫呉に賛成する。

「で、でも…」

「そうだな。後片付けは俺たちでするからよ…」
「夾くんもああいってるし、心配しないで早く休みなさい?」

「…ありがとうなのです…(T_T)」
それじゃ、先に休ませてもらいますね、とフラフラしながら二階へ上がって行く。

「大丈夫か?あいつ。」
「かぜかな…」
「酷くならなきゃいいけどねぇ…」
その頼りない後ろ姿を見ながらそれぞれつぶやいた。


翌朝。

夾は朝のランニングを終わらせ家に戻った。
「?…」
いつもならあいつが声を掛けてくるんだけど?
そういえば台所に気配がない。
由希や紫呉が起きてきてもまだ起きてこない。
もしかして…と三人は透の部屋へ。

「透くん?起きてるかい?入るよ…」
紫呉がそっと扉を開けると。
紫呉が側まで近づくと。
ふと透が目を覚まし、
寝過ごしたのです、と慌てて起き上がろうとしたが。

「気持ち悪いのです〜」
とまたベットに倒れこむ。

「あらら…昨日調子が悪かったのは風邪だったようだね。」
「だな。」
「本田さん、今日は学校お休みだね。」
土曜だしね、と由希。
「じゃあ、とりあえずぼくが連絡しておくよ。」
紫呉はいそいそと電話をかけにいった。
「俺たちは学校だな。おとなしく寝てろよ。」
「今日は役員会議があるから遅くなるから…一人で平気?」
紫呉もでかけるし、と由希。
「大丈夫なのです。おとなしく寝ています…」
気になさらないで学校に行ってください、と透が言う。
「じゃあ、出かけるけど、ムリはしないようにね。」
とそれぞれ学校と同窓会へと出かけた。


家に一人残った透はまたベットにもぐりこむ。

…ちょっと心細いのです…
早く誰か帰ってきてくれないでしょうか……

まもなく透は意識が深く深く沈んでいった。


・・・・・・・・・

あんたまた熱だして

無理してまで家事を手伝う事ないんだよ

透は透らしく

ゆっくりやってけばいいんだよ

いつか

追いつくから…


誰かが頭をなでている。
「おかあさん…?」
ふと、透が目を覚ますと。

「あ…わりぃ。起こしちまったか。」
「きょ…う君?」
どうして、と透はびっくりして起き上がろうとした。
「んー、やっぱ気になってな…早退した。」
どうせ土曜だしな、といった。
「ほら、まだ横になってろよ。熱あるんだからさ。」
で、でも…と透。
「でもじゃない。寝てろよ。」
よくならんぞ、と夾。
はい、と答え、パクッと食べる。
「甘くて、冷たくて、美味しいのです…」
「ほら、もっと食えよ。まだあるぞ。」

一切れ分も食べただろうか。
「もうはいりません…美味しかったのです。」
満足そうに言った。
「まだまだあるぞ…」
ちょっと困惑気味に言った。
どうやら買いすぎたようだった。
「夾君も食べてください。とても美味しかったのです。」
ニッコリと笑う。
べつに、食べさせたくて買ってきたから俺はいい、とぼそりと言った。
でも、と透。
「じゃあ、なにかお礼をさせてください。」
自分のできることであれば、と提案してきた。

ふと夾は考えて。
じゃ、と透の唇に自分の唇を重ねた。

触れるか、触れないかの軽いキス。
「?!き、夾くん?」
たちまち透の顔が赤くなる。
「だめだったか?」
「そ、そんなことは…ないです…」
真っ赤な顔で答える。
「そっか。安心した。」「でも、風邪、うつるかもですよ。」
「じゃ、俺にうつせよ。人にうつせば治るっていうだろ。」
そう言ってもう一度キスをした。


翌日。
物の見事に風邪をひいた夾の姿があった。
「くっそー。なさけねー。」
すっかり猫の姿になって寝込んでいた。
「なに?こんどはバカ猫が風邪?」
バカでも風邪ひくんだ、と由希。
「バカとはなんだ!」
大声でどなる。
「くっ…あ、頭に響く……」
そんな夾の様子を見て、
やっぱバカじゃないか、とつぶやく。
「それにしても長引かなくてよかったね、本田さん。」
透に向かってニッコリ微笑む由希。
夾に風邪を移した?おかげか、
透はすっかりよくなっていた。
「治ったのは良かったのですが…今度は夾君が。」
心配そうに夾の方をみた。
「大丈夫だよ。ほっといても。」
そう言って微笑むと、
ちょっと基地まで行く、と出て行った。


「夾君、大丈夫ですか?」
うんうんうなっている夾に問い掛ける。
「う〜っ、頭いてぇ…」
やっぱり移っちゃいましたね、とつぶやく。
「気にすんなよ…寝てれば治る…」
でも、と申し訳なさそうにうなだれる。
「いいんだよ!原因は俺の方にあるんだから。」
そう言ってくるっと背を向ける。
「じゃあ、もも、食べませんか?冷やしてあるのです。」
そういってももを取りにいく。

「おまたせしました。」
小鉢をもって戻ってきた。
「どうぞ。」
一口大にしたももを口元に運ぶ。
「自分で食う。」
小鉢を受け取ろうとしたが。
「ダメです。私にやらせてください。」
昨日、夾君に食べさせてもらって嬉しかったのです、と言い、
私じゃだめですか?と聞き返す。
「ば、ばか…わかったよ…」
口を開ける。

ぱくっ。

「美味しいですか?」
「うん…うまい。」
ちょっと照れながら答える。

もっと食べてください、と透。

夾は透に食べさせてもらいながら、
たまには寝込むのもいいかもな、なんて考えていた。


やってしまった。紫呉は?由希は?なにしてたの?って聞かないで…(T_T)
夾×透であまーいあまーい話を書きたかったの… ほかのカップリングはまたの機会に。