世界に一つだけの花
毎年恒例とはいえこういう華やかな場所は苦手だ。
出席しなくてもいいのならさっさと碁会所にいって棋譜を並べていたいものだ。
自分と比べて進藤といえば倉田さんと一緒に立食パーティを満喫している。
まったくうらやましい、というか。


このような親睦会みたいなものに出ると付きまとう面倒なことが一つ。
進藤には関係なさそうだが。
目立たないように隅にいてもどこからとも無くやってきて自分を取り囲む女性たち。
女流棋士もいれば父親についてきた娘さんやら。
新年の親睦会には子供や配偶者などを連れてくる人も多い。
中には婚約者を連れてくる事もある。
綺麗な振袖を身に纏い、華やかなことは華やかなのだが…


「アキラさんは誰かご一緒ではないのですか?」


取り囲まれながら飛び出す質問。
ここ2〜3年で飛び出すようになった質問。返答に困っていると…


「特に決まった人がいないのなら来年はぜひ私と…」

「あら、アキラさんは私とよ!」

「なによ〜!」

「こんな人たちはほっといて私と…」
 

自分の意思とは関係なくいい争いが始まってしまった。
こうなってはほっとくしかない。下手に口を挟まないほうがいい。
なかばうんざりしてその光景を見ていた。
 

「ちょっと、あんたたち。なに塔矢くんの意思に関係なく勝手なこと言っているのよ。」
 

その声に振り向くと仁王立ちになっている藤崎さんの姿。
淡いピンク色のカクテルドレスがなかなか似合っている。
 

「な、なによあんた。アキラくんのなんなのよ!」

「なに、って?あんた達に言う筋合いはないわよ。
さ、塔矢くん、さっきからヒカルが待ってるよ。」
 

むんず、と腕を藤崎さんにつかまれて、さっきまでの取り巻き達が呆然とする中連れ出された。
 

「ふ、藤崎さん、あの場を助けてくれたのは感謝するけど進藤は倉田さんと一緒だし、
それにどうしてここに藤崎さんが?」

「へへ、ちょっとね。それよりこっち来て。」
 

藤崎さんについて会場から出る。
 

「どこに行くんだい?あんまり会場を離れてはいられないよ…」

「もう少し。この廊下の先に待っている人がいるんだ。」
 

ちょっと、まっててね、と小走りにその相手がいるところに「お待たせ!」と走っていく。
 

「あ、あかりちゃん?どこに行ってたの〜はぐれたかと思ったのよ〜」
 

よく聞き慣れた声とともに藤崎さんと現れたのは市河さんだった。
 

「い、市河さんまで?!いったいどうしたんですか?」

「あ、アキラくん?あかりちゃん…」
 

市河さんは困惑した感じで藤崎さんを軽く睨んでいる。
 

「だって〜市河さんのその姿、もったいないもん。ね、塔矢くん。」

「え、あ、うん…」
 

そう。今日の市河さんは紅い振袖がとても良く似合っていて。
見た瞬間から目が離せなかった。会場の中にいた女の子達とはぜんぜん違う。
その場に釘付けになってしまった。
 

「じゃ、私、ヒカルの所に行くから。ごゆっくりv」
 

去り際に藤崎さんは市河さんの背中を思いっきり突き飛ばした。
きゃあ、と小さな悲鳴とドン、と軽い衝撃。すっぽりと腕の中に納まってしまった。
 

「ご、ごめんアキラくん…あかりちゃんたら…」
 

慌てて離れようとした市河さんを思わず抱きしめる。
 

「あ、アキラくん?!」

「すいません。もう少しこのまま…」
 

すっぽり自分の腕に収まる市河さんを抱きしめながら気がつく。
あぁ、そうか。気がつけば簡単なこと。腕の中の市河さんに。
 

「来年の新年会には同席していただけますか?」
 

と問いかける。
 

「…私でいいの?アキラくん、恥ずかしくない?」

「恥ずかしくなんてありません。市河さんじゃないとだめなんです。」

「だって私アキラくんより年上だし…」

「関係ありません。市河さんが僕と一緒にいるのが恥ずかしい、というのならあきらめます。」
 

腕の中から真意を測るかのように真っ直ぐ見上げる視線。
その視線を受け止める。ふと市河さんの表情が緩んで。
 

「私でよければ。でも知らないわよ。」
 

いたずらっ子のように微笑んだ。

 

僕が世界にたった一つの花を手に入れた瞬間だった。
どんな花よりも美しく、儚く、艶やかに咲く花を。

 


040102
アキイチでの短編。
いかがでしたか?これの前後話でヒカアカも書けそうですね。
余裕があれば書きたいです。