愛しいきみへ |
気がつけば。 いつもいつもキミの姿を目で追っていた。 だから。 キミが誰を見ているのか。 そんなことは当に気づいていたけれど。 それでも。 いまだこの気持ちは… それは風も暖かくなってきたある日の出来事。 桜の花の蕾がうっすらとピンク色に色づき始めていた。 薄暗い中家路を急ぐ。 「ただいま」 「…?」 明かりが点いているのに返事がない。 「誰も居ないのかな?」 いつもなら本田さんが「おかえりなさい。」と向かえてくれるのだが。 ふと下を見ると本田さんと夾の靴があった。 家の中には居るようだ。 台所の方から話し声が聞こえる… なにやら本田さんと夾が話しているようだった。 なぜか声が掛けられず、そのまま自分の部屋へと向かった。 ベットへ身を投げ出す。 (何の話をしていたんだろう。本田さん、嬉しそうだったな…) (夾の奴も嬉しそうだったしな…) なんだか胸がもやもやする。 今まであえて考えないようにしていた事が頭をもたげてきていた。 (もしかして……) 「じゃあ、いってくる。」 「いってらっしゃい!夾君」 どうやら夾が出かけたらしい。 やおらベットから身を起こし、台所へと向かう。 台所では本田さんが晩ご飯の支度をしていた。 思い切って声をかける。 「ただいま、本田さん。」 「あっ、お帰りなさいです、由希君。(ニッコリ)」 「ちょっと今いいかな?」 「なんでしょうか、由希君?」 「さっき夾となにか話してたよね…」 「はいです。」 「何か本田さん、嬉しそうに話してたから…なに話していたのかな、って…」 「夾君に一緒に来てほしいといわれたのです。」 「何処へ?」 イヤな予感がした。 「師匠さんのところへです…」 頬がピンクに染まる。 (ああ、やっぱり…) そんな本田さんはとてもかわいかった。 「ここを出るの?」 「そうなると思います…」 「そう…」 (…とうとうこの日がきたか…) 覚悟はしていた。こんな日がくることを。 ただ、想像していたよりずっと早く訪れた。 「由希君、どうかなさいましたか?」 「お顔の色が良くないのです。」 心配そうに顔を覗き込んできた。 「大丈夫だよ。心配しなくても。」 思わず目をそらしてしまった。 「ねえ、本田さん、少し俺の話、聞いてくれる?」 「私でよろしいのでしょうか?」 「うん、本田さんに聞いてほしいんだ。」 「はい、解りました。」 真剣な表情でこちらを見ている。 そんな姿さえ愛しい。 それが夾にだけ向けられるのか…それがくやしくもある。 「一緒にここで暮らすようになっていろいろあったけど…」 「はい、とてもいろいろありましたね。」 「どんなに辛いことやいやな事があってもね。」 「ここに本田さんが居てくれたから… 乗り越えられたんだ…いままで本当にありがとう…」 「そんなことないのです。由希君だから乗り越えられたのですよ。」 「それにわたしはいつも迷惑をかけてばかりなのです…」(T_T) そのあまりの真剣な様子に、おもわず笑ってしまった。 「本田さんにはホントかなわないなぁ…。」 耳元に口を寄せ、そっとささやいた。 「本田さん、俺も本田さんのこと大好きだよ。」 (夾に負けないくらい、ね…。) 「えっ…////////ゆ、由希君…」 たちまち顔が真っ赤になった。 「ごめんね。本田さんを困らすつもりじゃないから…」 「ただ、俺の気持ちも知ってほしかったんだ…」 「忘れてくれていいよ…」 「いいえ、忘れません!!私を好きだと言ってくださったこと…」 「胸の奥に大切にしまっておきますね!」 にっこりと彼女は微笑んだ。 「きっと由希君にもすばらしい出会いがあると思うのです。」 「そのときはぜひ私にも教えてくださいねっ。」 「そうだね。約束するよ。」 (本田さんよりすばらしい人なんて…いないと思う…) 桜の花が散り始めるころ本田さんは夾と共に家をでた。 そして桜が緑の葉を繁らすころ。 彼女は緑の中で花嫁になっていた。 あいつの横でやさしい微笑みを浮かべていた…。 本当は君の横に立つのは俺でありたかった。 でも、それはもうかなわぬ願い。 攫っていくこともできない。 いまそこにいる君はあまりにも幸福そうだから… だから俺はここできみのしあわせを祈ろう。 たくさんの勇気とやさしさくれたきみの その微笑がくもらぬように。 愛しいきみへ… 由希ファンの方、ごめんなさい! 由希にとってとても切ない話になってしまいました… けして由希が嫌いなわけじゃないんですがね^_^; こんな展開もありかな、と思って書いた作品です。 |