とまどい |
「やっぱり買いすぎたのです…」 買い物袋を置いて途方にくれている。 どうしましょう、とつぶやいた。 「ん?透か?なにやってんだぁ?」 そんな所で、と聞き覚えのある声。 振り向くとそこに夾が立っていた。 「あっ!夾君〜。買い物しすぎてしまって…(T_T)」 足元にはスーパーの袋が転がっている。 「…なんだってまた…」 お醤油とお味噌が安かったのでつい、とうつむく。 「にしてもよく此処まで運んだな…」 「はい!休み休み運んだのです!」 ニッコリと笑う。 しゃーねーなぁ、持ってやるよ、と言うと、 ひょい、とスーパーの袋を持ち上げる。 「あんがい重いな…」 男の自分が持っても重く感じるのだから、 女の透が此処まで運ぶのは大変だったろう。 「ったく、こういう物買うときは俺に言えよな…」 半分呆れ顔だ。 「すいません〜(T_T)」 「いや、別に怒ってるわけじゃないぞ。」 夾が慌てる。 「重いほう持ってやるから、こっちの軽いの持ちな。」 そういって小さい袋の方を透に持たせる。 「ありがとうなのです…」 ふたり並んで家に向かって並木道を歩いていく。 紫呉宅にあともうすこし、 というときに。 「…透…」 「はい?なんでしょうか。」 「これ…やる。」 コートのポケットからなにやら小さな紙袋を取り出し、 透に手渡した。 「?…なんでしょうか…。」 「開けてもよろしいですか?」 すこし顔を赤らめていいよ、と返事をする。 カサカサッ… 中から小さなケースが出てきた。 蓋を開けるとそこには淡いピンクのハートをあしらったリングがあった。 「…夾君…これは…」 びっくりして夾を見上げる。 夾の顔は真っ赤だ。 「指輪だよ…」 その石がおまえのイメージぴったりかなと思って…と言葉をにごす。 「受け取って欲しいんだ。それは右の薬指用。」 「…右ですか…?」 「そう。右用。」 言って透の右の薬指にはめてやる。 「ぴったりなのです!嬉しいのです(T_T)」 うっすらと涙を浮かべている。 「泣くなよ…」 「泣いてないです…嬉し涙なのです…」 透の目から涙がこぼれ落ちる。 「…俺は左の薬指にも指輪をはめてやりたい。」 「えっ?!」 「今はまだ無理だけど、それまではその指輪をはめてて欲しい。」 「そしてこれからの事、考えて欲しいんだ…」 いそがないからさ、と言う。 照れくさそうにそう言うと、 「帰ろう。」 そう言って透に手を差し出す。 透はその手をしっかりにぎり、 「はい!帰りましょう!」 そして元気に紫呉宅に向かって歩き出す。 「・・・夾君・・・・」 「ん?」 「ありがとうなのです・・・」 夾は何も言わなかったが、透の手を強く握り返す。 「大切にします・・・・」 透も手を強く握り返した。 うっぎゃー!! やっちまった・・・・。 |